短歌に関わるなかで不便に感じていること:アンケート結果より
アンケートの回答者属性
「tankafulアンケート:2014-12」にご意見をお寄せいただいた40名の方々の属性をまとめて、グラフにしてみました。
傾向としては、男性よりも女性が多く、若い世代が中心でした。また、結社や大人数の同人誌(「かばん」など)への所属状況は、性別・世代を通して大きな違いは見られませんでした。tankafulを見てくださっている方々全体にも、そのまま当てはまる傾向と考えて良さそうです。
アンケートの質問項目
今回のアンケートでは、以下の質問について自由回答でお答えいただきました。
- どのような執筆者による、どのような連載記事を希望されますか? 簡単な理由もお書き添えください。
- tankafulへの機能・内容要望や、ご意見・ご感想があれば、お気軽にお書きください。
- 歌を詠(読)んだり、総合誌を購入したり、イベントに参加したり……日頃、短歌に関わるなかで不便に感じていることや気になっているテーマがあれば、些細な事でも結構ですのでお書きください。
質問の1と2は、tankafulへの要望にあたるものですので、以降の運営に可能な限り反映していこうと思っています。
質問の3は、短歌界全体をより良くしていくために、解決するべきことは何かを探るためのものでした。現状と課題が広く認知されれば、次の一歩はきっと踏み出しやすいものになると思います。今回、ここに主だったご意見を公開いたします。
なお、公開にあたって、ご意見内容が変わらない範囲で文章を短くしたり、文体を揃えたりしています。そのため、ご意見文本来のニュアンスが伝わりにくくなっているかもしれません。その点はご了承くださいませ。
「日頃、短歌に関わるなかで不便に感じていることや気になっているテーマ」への主なご意見
イベントに参加しづらい
- 地方在住のためイベントに参加できない。イベントのネット中継や、地方でのイベント開催があると良い。
- 経済的理由で歌会などに参加しづらい。
- 地方在住のためイベントに参加できず、東京と地方との機会格差にストレスを感じる。それを解消する何かが欲しい。
- 歌会に興味があるが、遠方のため参加できない。歌会のレポートなどがあると良い。
- 地方在住者や土日勤務の人、子育て中の人は、イベントに足を運びにくいように感じる。イベントに関する情報が蔓延しているだけに、疎外感を感じやすい。イベントの懇親会で原稿の依頼を受けることが度々あり、縁が関わるものであれば、イベントに参加できない人は二重に機会を失っているのでは。
- 知っている人がいない/少ないので、イベントに行きづらい。
イベントにもいろいろな種類がありますが、歌集批評会を例にとると、一般的には週末や祝日の午後13時~14時頃に開始され、17時ぐらいの終了となるでしょうか。自由参加の懇親会が用意されているいることが多く、すこし時間をあけて18時ぐらいに開始となり、21時ぐらいに終了します。その後さらに話したい人で別のお店に移動したり…となると、半日かかることになり、出費もかさみます。密度が濃くて得るものも多い一日となるのですが、なによりも遠方に住んでいる方や家を長く空けられない方には参加しづらいものです。
特に、昨今はtwitterなどでイベントの盛り上がり具合が伝わってきたりしますので、参加できないときに感じるストレスは、たしかに大きくなりやすいようです。
イベントの中継や文章による記録の発表など、手間暇はかかるのですが、できることはたくさんありそうです。長い時間軸で考えた場合、将来の世代にとっても貴重な記録となるはずです。tankafulでもできることを考えていければと思っています。
「イベントの懇親会で原稿の依頼を受けることが度々あり……」というご意見については、私(光森)は経験がないので、そのようなことがどの程度あるのかは分かりません。ただ、お互い人間同士ですから、顔を合わせて意見を通わせたことで生まれる縁は、当然あるものでしょう。お酒を酌み交わす席での何気ないひとことから、あらたな同人誌ができることも。懇親会をインターネットで中継するというわけにもいかないので、どうすれば良いのかはわからないですが、誰とでもたやすく交流できるはずのインターネットではカバーできない領域が懇親会にはあるようです。
……と、コメントが長くなってしまいましたので、以降のご意見例についてはリズムよく行きましょう。
歌集が入手しづらい
- 図書館に歌集が置いていない。歌集のある、書店・図書館・古書店の情報が欲しい。
- 歌集は高いため購入しづらい。
- 歌集は高く、造りも立派なものが多いため、気軽に読めない。もっと気軽に歌集を読みたい。
- 書店に歌集が置かれていない。
- 歌集を出版する手段が、ほぼ自費出版しかない。そのことに疑問を感じる人がいないから、出版社もがんばろうとしないのでは。
- 手に入らない歌集が多い。
こちらも、短歌のイベントについてのご意見同様、とても多く寄せられたものです。2013年には、 紀伊國屋書店新宿本店で短歌フェアが開催され、短歌トークイベント「本屋で歌集を買いたい」も話題になりました。読者層、書店からの声があがるなかで、出版社側がこの問題をどのように考えているのか。その点が一向に見えてこないのが、一番気になります。協同して取り組むべき問題だ思われますので、まずはそれぞれの情況を理解し合う必要がありそうです。
感じられる壁
- 短歌の世界は保守的で村社会のように見える。一方で、若者から流れを変えたい、作りたいという気概が見られない。
- ジャンルとしての閉塞を感じる。玄人が素人をばかにするようなことも見受けられ、居心地が悪い。
- 投稿や賞に応募する人は、応募作が「未発表作品」に制限されるため、ネット上で歌を詠むことは少ない。一方で、投稿や賞を目指さない人は、ネット上に歌を発表する。それらの人のかけ渡しとなるような場が欲しい。
- 仲間だけの盛り上がりを見ると、初心者としては参加しづらい。
- 結社に所属している人、新聞歌壇に投稿している人、ネットで自由に歌を発表する人など、方向性の異なる人が混在しているために、衝突や小さな違和を感じさせる場面によくであう。その度に、壁を感じる。
何らかの「壁」を感じておられる方も多かったです。短歌に限らずどのようなジャンルでもあること、と言われれば、そうなのかもしれません。インターネットが(一見)フラットな世界であるからこそ、小さな壁が大きく目立ちやすい、と言われても、なるほどと思う一面はあります。
具体的にどこでどのような出来事が起こっているのかを確認しなければ分からないこともあり、コメントがしづらいのですが、短歌を共通点としてさまざまな人がいるということが、そのままジャンルの武器になることを願うばかりです。そのためには、相互に違いはあったとしても、その間の壁は限りなく壊していく気持ちが大切となりそうです。
結社について
- 結社誌などにおいて、分かち書きや横書き、あるいは平仮名を多用した長い歌などを提出しづらい。
- 結社の由来、歴史、結社誌面の構成など、口伝えにしか分からないことが多すぎる。全部wikiのような形式でまとめて欲しい。
- 数ページでも良いので、結社誌の見本がネットで確認できると良い。
……結社所属の方々に、ご意見が届きますように。
見本誌をネットで確認したい、というご意見には、なるほど確かにと唸らされました。
”とりあえずウェブサイトを持っていれば良い”という時代もはるか前に過ぎ、内容の更新がしばらくないだけで、訪問者に不安を抱かせてしまうような時代です。結社誌を編集する一方で、サイトを管理・更新するのは大変な作業だと思われますが、結社誌の時評など簡単には読めない記事がサイトで確認できたりするのは、非常にありがたいものです。結社のサイトがより発展するなかで、新しい出会いがよりたくさん生まれるといいですね。
総合誌について
- 人から情報を得ることが多く、体系的に情報を収集することができていない。総合誌は分厚く、値段も高いので、切り売りして欲しいぐらい。
- 気になる記事があるときには買うが、短歌の総合誌はどれも読みにくいと感じる。一般読者は総合誌を手にしても、敷居が高いと感じるのではないか。
- 賞へ応募するにあたり、どこまでが「未発表作品」か分からない。
- 賞へ応募するにあたり、原稿用紙の使い方が分からない。
こちらも、各総合誌編集部の方々に、ご意見が届きますように。
その他のご意見
その他のご意見を、まとめてご紹介いたします。
- ネットは調べものに便利だと思っていたが、情報が多すぎて読みきれず、整理できない。例えば、俳句の場合、現代俳句協会や他のサイトに、作者名・プロフィール・代表作などが検索できる。
- いろいろなサイトがあり、ばらばらになっているように感じる。
- 特定の歌風の歌を読みたい場合、それが何と呼ばれる種類のものであり、どこで読めるのかが分からない。
- 批評会での司会者やパネリストが、いつも同じ顔ぶれなのがとても気になる。歌集著者当人の希望なのかもしれないが。
- 短歌の世界にも、経済的格差があるように思う。
- 短歌には投稿の場が多いが、掲載される人が被っているように思う。皆さんは、どこにどれくらいの頻度で投稿しているのでしょうか。
- ネット上で短歌作品を発表している人には、自作の押し売り状態の人もいるように感じる。賞や投稿などに、選ばれれば喜び、選ばれなければ落ち込む様を見ると、人の評価を気にしすぎているように感じる。
- 何が良い歌で、何が悪い歌か分からない。
- ネット歌人(の歌に)に暴力的な言葉が多い。もっと日常が潤うような歌であって欲しいと思う。
- 短歌が「文芸」という枠組みにとらわれすぎているように感じる。新しい視点や、感情の発見に重きを置くことだけが、評や読解の全てではないように感じる。
- 趣味で短歌を読んでいる人となかなか関わりが持てない。
最後に
今回は「日頃、短歌に関わるなかで不便に感じていることや気になっているテーマ」をお聞きしたので、当然ながらポジティブではない意見が集まりました。短歌の世界には、当然ながら素敵なこともたくさんあります。
短歌の世界に新しい魅力をどう足していくかを試していく一方で、困っていることや残念なことは、少しずつでも改善していきたいものです。まずは現状を認識することが肝心だと思います。本記事がその一助になれば嬉しく思います。
お忙しい中、アンケートにご協力いただきました皆さまに、心より御礼申し上げます。tankafulへのご提案を実現していく過程で、少しでも短歌界全体に貢献できればと思っています。
tankaful編集部:光森裕樹