嶋田さくらこさんへのインタビュー<後編>
*「嶋田さくらこさんへのインタビュー<中編>」より続く
発行費用をどう考えるか
光森
正直、いつまで続くのかな、というはらはらしたものはあると思うんですよね。田中槐さんが「歌壇」2012年12月の年間時評「震災後一年と短歌のこれから」で
「うたらば」や「うたつかい」は主催者個人の経済的・肉体的負担が大きすぎるため、このままの状態で冊子を発行し続けることは難しいだろう。何か新たな方法を模索していくのか、あるいは別のものにと姿を変えていくのかもしれない。
と書かれているように。「うたつかい」については少なくとも、お金に関しては、寄付として融通してくださる人がいるとは聞いているんですが。
嶋田 お金については、本気で寄付金を募ったりすると、たくさん集まるような気がします。最初のうちは。それをちゃんと管理する自信がなくて。継続していただくお願いをする自信もないです。今は、かかる金額が自分のお小遣いの範囲でなんとか収まっているので。実は、投稿者の数が160人ぐらいで止まっていまして、ここ一年ぐらいは150人を超えるあたりで、落ち着いているんですよね。それはツイッターアカウントを持っている人に限っているからだと思うんです。投稿をやめる人もおられるので、少なくとも投稿者が劇的に増えることは考えていないんです。ツイッターのなかでやっている限りしばらくは大丈夫かなと。
光森 なるほど、面白いですね。ツイッターがあるから広まった面もあれば、それがほどよいブレーキとして効いている面もあるということですね。
嶋田 どちらかといえば、金銭面なものよりも人的面が大きいかもしれません。今、デザイナーが2人がいるんですが、もしどちらかがやむない事情があって離れることになれば、同じペースで続けるのは難しいなと。年4回発行なのを、年2回に減らしたりする必要がでると思います。あと、私が新聞屋をやっているから、印刷や製本がしやすいというのもあります。これを外注に出すようなことになれば、多分継続はできないですね。まぁ、私の環境に劇的な変化があると「うたつかい」は終わってしまうな、と思います。
光森 たとえば、発行するための費用や、協力してくれる人が今の10倍ぐらいいるとして、そのときに「うたつかい」でやってみたいことはありますか。
嶋田 潤沢な資金があれば、今まで無償で手伝ってくれている編集部員とライターさんにお金を払いたいですね。
光森 なるほど。それは分かりますね……
嶋田 ただで働いてもらっているんで。内容はこれ以上やりたいことは……いや、結局お金じゃなくて時間なんですよ。
光森 時間?
嶋田 時間がなくて、記事が作れないんです。やりたいことはあるんですけど。潤沢な資金があれば、「うたつかい」編集部員が毎号ひとり1万円もらえるみたいにして、充実した編集環境のなかでやりたい人がいれば、編集部員も記事を書いたり、わたしがライターさんを手配するということをやりたいですね。私自身はもう時間的に無理なんで、今の生活的に。
光森 では、時間がたくさんあればどうですか。
嶋田 時間がたくさんあったら、例えば今だったら私も歌集を出したので、結社の歌人さんにお会いした時に、「こんな冊子を作っているんですけど、何か書いてもらえませんか」と交渉して、記事を書いていただき原稿料をお支払いしたいですね。もっと投稿者の皆さんに喜んでもらえる冊子になると思うんですよね。そう、時間とお金があれば。
光森
tankafulの記事を読んでくださっている方から、「うたつかい」に寄付をしたいという方がおられて、お金を送るのか、切手を送るのか、いろいろ方法はあると思いますが。また、編集部の方を含めた体調面も心配されている声もあったので。お金の管理云々はおいておくとしても、編集に係る方々が何らかのかたちで報いるというのが理想的かと。
なんか正しいことをやっていれば、それに応じた何かがあってもいいと思うんですよね。
嶋田
そうなんですよ。最近私がヒントにしているのは、「かばん」の編集部に、どうやって冊子を作っているのか聞きたいなぁとおもっているんですよ。
「かばん」は誰が編集を担当しても冊子ができるような仕組みになっていると聞きました。だから、編集委員も交代していける。そういうところを聞いて、ヒントにしたいなと。
光森 たしかに、「かばん」はどんどん編集長が変わる仕組みですが、発行にまったく影響がないですよね。……どんな仕組みなんだろう?
嶋田 寄付をしたいと言ってくださる方に関しては、個別には私に言ってきてくださる方については喜んでお受けしているのですが、寄付をおおやけに訴えると、そうしないと投稿できないと思ってしまう方がでてくるかもしれないのが嫌だなと。だから、今のままでもいいんじゃないかと。私の周りにそういうことを細かくみてくれて、こうすれば上手く回るよ!とアドバイスしてくれるオブザーバーが居てくれれば、誰にとっても問題のない寄付のシステムができるのかもしれないですし、ありがたいのですが。いずれにせよ今は何もアイデアがなくて。誰に相談したらいいのかとも思いますし、一番悩んでいるところなのかもしれませんね。
たとえば「広告」について、どう考えるか
光森 難しいですね。寄付を募ると、半ば強制的に見えてしまうので。広告をいれるのもひとつかなと。例えば総合誌などは、結社からの広告で一部成り立っているところがあると思うので。
嶋田 そうですよね。私もね、最初広告をとろうとおもっていたんですよ。でも私、集金が苦手で。
光森 集金が苦手!
嶋田 結局、広告載せるにしてもただで載せる勢いなんです。「いくら頂きますが広告載せませんか?」というのもできないんですよね。すごく苦手で。最初は、編集後記書いているページあるやないですか。あそこに広告載せる気まんまんやったんですが。
光森 でも、総合誌に広告を出している出版社や結社と話をしてみるのはいいのでは。「うたつかい」に投稿されている方が、結社に入っていない方が7割くらいで、多くが歌集を出したことがないとして、そのような方々に伝えたいものがある組織はあるように思います。それこそ、総合誌が「うたつかい」に広告を出してもいいような。
嶋田 なるほど、出版社などに言うんですか。
光森 私もやったことはないんですけれど。結社などの組織がどこかの誌面に広告を出すという仕組み自体はすでにあるので、誌面に枠が用意できるのであれば、すでにある広告をうまく再利用して入稿してくれるのでは。まぁ集金については……なんとかがんばりましょう、ということになりますが。もちろん、誌面に刷り込まなくても、折込みを挟むというのでもいいんじゃないかと。
嶋田 なるほど。言われてみると、そうですよね。
光森 気になるのは、編集部の方も含めて、どこまで長く続けられるのかというのが一番心配で。そこへの心配がないほうが、冊子としてより読みやすくなるのではないかと思っています。投稿者の方は、掲載された一冊に愛着を感じると思うんです。毎回手の込んだ一冊が出ているだけに、逆に不安を掻き立てるところもあるんじゃないかと。
嶋田 なるほどねぇ。ひとつだけ思っているのは、ヤマトのメール便がなくなるというのがニュースになったときに、送料は頂いたほうがいいのではないか、ということは思いました。例えば、おひとり100円を払ってもらって、皆さんは安心して冊子を手にするという方法も考えたんですね。メール便に変わる新しい仕組みがどうなるか分からないのですが。
光森 長く続けていけるよい仕組みができるといいですね。
なぜ「うたつかい」は注目されるのか?
光森 それではインタビューもそろそろ最後ですが、嶋田さんからいい忘れたことなどがありましたら。
嶋田 私は、なぜ皆さんが「うたつかい」を注目してくださるかがわからないんです。もともと短歌の中心にいらっしゃる加藤治郎さんや田中槐さんが記事にしてくださったり、光森さんがtankafulに記事を依頼してくださったりとか。
光森 そうですね、私自身の考えを述べるとすると……短歌の世界では、歌についての批評はかなり充実していると思うんです。いい歌はいい、わるい歌は悪いと言える文化がありますよね。それは歌会や批評会の存在から来ていると思うのですが、素晴らしいものだと思っています。
嶋田 たしかにそうですね。
光森
その一方で、短歌の世界の仕組みや歌集を出すこと、雑誌を出すことについては批評や検証が発生しにくい文化にあるように思うんです。例えば、歌集も同人誌・結社誌も、一体どういう仕組みで発行されていて、どういう人がどういう苦労をしているのかということが分かりづらい。誰しもが興味があるものだと思うのですが。結果、今の仕組みが良いことなのか悪いことなのかも語られない。それでは、短歌が長く続いくための障害になるのではないかと。
また、例えば総合誌の時評などで、「最近はこんな同人誌があります」「文フリというイベントがあって、とても盛況です」というメッセージとともに、いい歌を何首か引いて終わり、という文章は結構たくさんあると思っていて。それって、その雑誌に対する批評を、歌の批評にすり替えているだけなんじゃないか、という気がするんですよね。
だから、「うたつかい」や「うたらば」が、どういう思いでどういうふうに作られているのかが知りたかったし、広く世に伝えていきたかった、ということですね。従来の短歌の世界に視点をおけば、完全に無料で素敵な冊子が出来あがってくる、しかも、そこに数多くの人が参加している、ということは考えられないことだったと思います。また、インターネットにおける短歌活動で、ここまで継続性を持っているのは珍しいと思いますから。
嶋田 なるほど、そっか。たしかに、参加人数が多いっていうのはよく言われますね。
光森 一般的な結社や大手の同人誌よりも多いですよ。
嶋田 そう言われると、特徴的ですね。一体何が良かったのかは明確には分からないのですが、短歌の世界をなんにも知らない私がつくったことの弊害も、逆に、かえって良かったこともあったのかなと感じました。
光森 従来短歌の世界が長年をかけて練り上げてきた、結社誌や同人誌の仕組みが、ある面では軽々と超えてしまっているのかもしれません。もちろん、コンピュータの進化やインターネットの発展もその土台にはあると思うのですが。「うたつかい」や「うたらば」ってなんだろう、どうなっているんだろう、という視線はそのまま、従来の結社誌や同人誌ってなんだろうと、その根本を問いなおすきっかけになるのかもしれませんね。
嶋田 なるほどね。そういうことか。私ね、逆に光森さんにお聞きしたいんですけれど、結社の高齢化が問題になっているじゃないですか。どうして若い人が入らないんですかね。
光森 私も入っていないから、なんとも答えづらいような気もしますが……
嶋田 「うたつかい」をみてても若い子はいっぱいいるんです。短歌が好きな若い子ってあとからあとから溢れてくるように感じているんですけれど。結社が高齢化でやばい、みたいという話を聞くとなんでなのかな、と不思議に思うんです。もちろん、インターネットという場があってこそ、という面はあるので、高齢の方が中心になっている結社には難しいところもあると思うんですが。
光森 未来や塔など、若い人が元気な結社は確かにありますよね。ツイッター上などで短歌について積極的な発信をしている人が結社所属の若手だと、それが間接的な結社の宣伝にもなりますよね。そこから、私も結社について考えてみようかなという人が出てくる。その人が結社に入れば、それをツイッター上で発表するわけで、それがまた結社の広がりに繋がる。意図せず、インターネットが寄与している結社自体はあると思いますね。
嶋田 そうですよね。今ぞくぞくと未来や塔に入る人が増えていて。
光森 ただ、全体としてはインターネット上で調べて知ることのできる結社の情報は限られていて。結社のサイトがあったとしても、それを見て分からないことはとても多い。例えば、選者の名前は書いてあっても、それがどういう人か分からないことも。長いあいだ総合誌や歌集を読んできた人ならば、それで十分かもしれないですが、インターネットの世の中なら、短歌をはじめて間もない人が結社について調べることもありえるわけで。今は、情報が少ないということが、そのまま簡単に不安や無関心に繋がりやすいですよね。その点で、損をしていることは多いんじゃないかと思います。
嶋田 そっか。そういう意味では「うたつかい」は分かりやすいですよね。はい、5首です。テーマ詠です。プロフィール書いて投稿してください、みたいな。
光森 それぞれの結社が、その結社らしい方法でしっかりと情報を伝える。そのために、インターネットをうまく利用すればいいし、それが難しければ結社の中の若手や、誰かに相談すれば、一歩も二歩も進むものはあるかと思います。……と、私ばかり話してしまいました。
最後にひとこと
光森 それではほんとうに最後になります。まとめの一言をいただけると嬉しいです。
嶋田
そうですね、まとめといいますか。なんかやっぱり皆さんが心配してくださっているのやな、というのが分かりました。「うたつかい」について、いつまで続けられるかわからない、と、私がわりと不安定なことを言うもんですから。投稿者の方に不安を与えてしまうのはよくないなと思いましたね。
皆さんからの意見をいただきつつ、今後の運営についてしっかり考えたいなと思いました。
光森 本日は、ありがとうございます。「うたつかい」のさらなる広がりに、期待しています。
嶋田 こちらこそ、ありがとうございます。