うたつかいの短歌たち。そしてうたつかいは続くのか。

前回は「うたつかい」がどんな冊子かということを、現在掲載中のコンテンツを一つずつ詳しくお話することでご紹介しました。このtankafulの記事の第1回から第4回までを読んで下さると、冊子の実物をご覧になったことが無い方にも、「うたつかい」がどんな冊子でどんな人間が作っているのか、イメージしていただけるかと思います。次回はインタビュー記事になりますので、うたつかいに投稿された短歌がどんな雰囲気なのか、今回ご紹介したいと思います。また、うたつかいの今後のことについても、少し触れたいと思います。
(日)

うたつかいの短歌(1) テーマ詠

(写真1)1ページに16~17作品を掲載

 つい先日、1月20日に第21号である2015年1月号を発行しました。この号は昨年の10月22日にご投稿が締切でした。まずは、テーマ詠「毛」(一人1首のみの投稿規定)にご投稿があった133首の中から、私が選ばせていただいた巻頭歌をご紹介します。

フェイクファー、あるいは偽りの遠さ 死後ってきっとあったかいんだ (飯田彩乃)
(写真2)巻頭歌は表紙をめくってすぐの場所に掲載されます。

 「フェイクファー」はファッション用語で人工毛皮のことです。「フェイク(偽物の)ファー(毛)」から「死後」へのイメージのジャンプ、そしてそこが「あったかい」場所だということに、死んでしまった後にさえあるほのかな希望や、世界の広がりを思いました。飯田さんはうたつかい創刊号から参加して下さっていて、わたしの大好きな歌人さんであり、頼れる友人でもあります。彼女が捉えて提示してくれる世界はいつも魅力的です。

 そのほか、テーマ詠で巻頭歌を選ぶ時に最終候補にした歌を、拙いものですが簡単な感想とともにいくつかご紹介します。( )内が作者名です。

  • 愛猫の毛づや見る間に蘇る点滴をして延ばした命 (榎本 圭子)
  • ええ僕が犯人シラを切る気など毛頭ありません 好きでした (黒猫。)
  • 艶やかな毛に覆われた一匹の孤独な犬をボーナスで買う (こころ)
  • ささくれているのにそれも白桃の産毛のようでまばゆい雛は (琴平葉一)
  • 情けなくゆがむ眉毛がおかしくてあしのしびれたあなたをあいす (小林ちい)
  • すこしずつ十一月のちかづきてウールマークにうもれておりぬ (笹谷香奈)
  • ハグもなくただ禿げてゆく日々もまたtrue loveだといつか知るのさ (鹿ヶ谷街庵)
  • その程度がお似合いだよと言われても綿毛を持って風を待つ昼 (虫武一俊)

 わたしも猫を飼っているので、ペットのことを詠んだ榎本さんとこころさんの歌には、胸の奥にぐっときました。命とお金、という人間として生きる上での大きなテーマを感じます。黒猫さんの「毛頭」を持ってくるアイデアとリズムの良い句跨りには脱帽です。琴平さんは「雛」を「白桃の産毛」と捉えて「まばゆい」と感じる心がすてきです。小林さんは下句のひらがなが謎解きの呪文のようで、甘い歌だけでないアクセントがあります。鹿ヶ谷さんは言葉遊びから始まって、どこかで聞いたことのある歌詞のような演出がシニカルな内容と相まって、かえっておかしみが増しています。虫武さんは打ちのめされる現実のダイレクトな提示に「綿毛」の心もと無さが切なくて泣いてしまいそうです。そして、ここではご紹介しきれませんが、人間の体毛を詠み込んだ歌がとてもたくさんありました。くすっと笑える表現のものが多かったです。

 テーマ詠は、実は投稿者数が100名を越えた時に、ページ数が増えるため、制作予算がかさむ心配から、コンテンツを無くそうかと思っていました。編集部内での会議で、やはり一冊の冊子として定期的に発行するにあたり、テーマ詠があった方が読者の方に喜んでもらえるのではないか、という意見が多く出たため、継続することになりました。

うたつかいの短歌(2) 5首の自由詠

(写真3)1ページに6作品を掲載

 なぜ5首なのか。創刊を考えていた頃、わたしは『NHK短歌』(2011年9月号)を読みました。天野慶さんがプロデュースされている(現在も続いています)「ジセダイタンカ」のコーナーに田中ましろさんの作品掲載があったからです。田中さん以外にも2作品掲載されていたかと思いますが、すべてタイトルと5首という形でした。(現在はタイトルと7首とショートエッセイ)ツイッターのタイムラインでは1首のみを読むことが多かったので、連作という形が新鮮でしたし、その歌人の魅力を知るのにいい形かもしれないと感じ、この真似をしました。では、うたつかい1月号から、何人かの方の作品をご紹介します。太字がタイトル、その後に作者名です。

  •    牛隆佑
  • 震度七の揺れではなくてかぶさった母の重みで目が覚めたのだ
  • 落ち着いていたかあるいは喪っていたかテレビを抱き起こす父は
  • 町が街がリアルであると評判の映画のような光景になる
  • とりあえず社会人になったあの年のマラソン大会中止のままで
  • 次来るぞ次の瞬間ドンと来る 囁く奴が胸中に居る
  •  争ひの街  太田宣子
  • 付け合はせのパセリも食べるひとだつたわたしをきれいといふひとだつた
  • 帆を持つて目をつぶりゐるあひだにもきみとの舟は傾いてゆく
  • かはりなんてゐない同じ虹を見て同じ虹が消えるのを見たの
  • 夜に咲いて黙つて落ちてまた別の花が咲くまでは愛されたかほ
  • 人生は長いのだらうたれかまた眠るのだらうあなたの肩に
  •  すべてうそです  九魚こはる
  • 明日は冬 人は水辺を去ってゆきこれから海は透明になる
  • 降りそそぐ花梨の実から逃げまどう貴方もわたしも生きていること
  • 眠る前あなたは確かに鳥だった 僧帽筋はふるさとの山
  • きらいな人はいないクソほど元彼に似ているアヤノゴーだけ嫌い
  • 「もしもし、わたしは、すべてうそです」(歌さえも)すべてうそです スマホのひかり
  •  ははははははははのははははははとわらった  檀可南子
  • ちちの実の古稀を迎えた父宛てにアダルトサイトの高額請求
  • あれはちゃうチャウチャウとちゃう チャウチャウの性格はよそよそしいんやで
  • 耳にまでチーズたっぷり耳にまでチーズたっぷり さめないうちに
  • 「なんかすごいオシャレですね」というときのシャレはしゃれこうべの方のしゃれ
  • 「アボガドじゃなくてアボカド」そうやって正義みたいな顔であなたは
  •  二歩後ろ  辻聡之
  • 人が死ぬテレビの中で飲んでいるビールおいしいのかなときみは
  • 熟れきった桃の香りに闘病の再現VTRまみれて
  • もどかしいテトリスみたいにつなぐ手の第二関節痛かったこと
  • 連れていきたかったラーメンキング過ぐ 季節を束ねたままのヘアゴム
  • 後ろ姿フェチと笑って二歩後ろ歩いていたきみのミュールをしまう
  •  点描  濱松哲朗
  • 点描のやうにあなたは微笑んで秋の屈折率がゆらいだ
  • ああこれも真水の比喩か透きとほるグラスに冷ゆる光の気配
  • 感情を使ひ捨てては悦んで紅葉ばかり眺めてしまふ
  • ほつといたら羆になつてうつくしい荒地の風を慕ふのだらう
  • 適切に配置されたら僕たちは各々適宜ゆるキャラになる

 自由詠には143作品のご投稿がありました。投稿して下さる方の年齢も所属のある・なしもさまざまです。所属結社やグループのある方は、いつもは作らない雰囲気の作品を発表する実験の場ととらえて下さったり、また、所属のない方は作品が定期的に活字になることがうれしい、と言って下さったりしています。わたしの楽しみと言えば、長く投稿して下さっている方の、各号ごとにリアルな生の瞬間を垣間見ることができたり、その方の短歌の成熟を感じることです。新しく投稿して下さる方には、はっと目が覚めるようなあざやかな空気を感じたりします。短歌を通して、たくさんの方とどんどん親しくなっていくような気持ちになります。一方的ですが(笑)

うたつかいの短歌(3) 恋歌

(写真4)交互にずらして、初めに詠む方をゴシック体、後から詠む方を明朝体で表記します。

 二人一組で恋する気持ちを詠み合うコーナーなのですが、近ごろ投稿数が急増しています。このコーナーは作ったものの、一向に投稿数が増えず、もうやめてしまおうかと思った時期もありました。少ない時期は1ページに2作品掲載だったのですが、ページ割の都合上、1ページに3作品になりました。今号は7作品14名の掲載です。組み合う相手がいつも同じ方もいれば、変わる方もいます。もちろん年齢性別に制約はありません。

  •  水辺の寝台  中牧正太×千原こはぎ(奇数首が中牧さん、偶数首が千原さん)
  • 僕たちの二足歩行の愚かさを識るために臥す夜かもしれぬ (中牧)
  • 朝にまた歩き出すため臥す夜のタイムラインに灯る星々 (千原)
  • 河も水、白波も水、雪も水、泪はどうだ報告を待つ
  • あたたかなかなしみでしたこれもまた水のようです報告おわり
  • 君のことよごしてみたい湖にインクひとつぶ落としてみたい
  • ひとつぶのインクの染みはひろがって身体の隅までかすかにあなた
  •  a border  いないずみ。×笹谷香菜
  • やわらかな朝をむかえてひとりではついばむことのできない木の実 (いないずみ。)
  • 湖の底にも朝がくることのゆうべのほそくあおいその声 (笹谷)
  • 薔薇ばかりほしがるきみのくちびるに浸食される二丁目あたり
  • 熱をもつだけでは足りずついばめば夜はこうしてつぼみをひらく
  • 約束の夜がこのままこなくてもきっと正しい脈拍をうつ
  • まっしろな空のほとりに朝がきてほどけてしまうひとりとひとり

 タイトルの世界観や二人の掛け合いによって物語がどんな風に展開してくのかにわくわくします。この二人は実際にはどういう関係なんだろう?と想像することも楽しみの一つです。参加して下さる方は、二人で一つの作品に取り組むことの喜びを話して下さいます。

うたつかいは続くのか

 こうやって掲載歌をご紹介していますと、わたしが一番この冊子を楽しんでいるのではないかと思います。もちろん、参加して下さっている方からも、楽しんでいる、とうれしい感想をいただきます。一つの冊子に仕上がるまでの作業も、仕上がった冊子を読むことも、すべてわたしの生きる大きな喜びです。もし、この喜びが薄くなったり、苦痛になったりすれば、制作をやめるかもしれません。また、編集部内の事情が変われば、やめざるを得ないこともあるかもしれません。長期的な展望は一切ありませんが、かろうじて一年ごとに目標をもって活動しています。計画性がないと言えばそれまでなのですが、そんな雰囲気も許していただきながら続けていきたいと思います。長々と読んでいただきありがとうございました。今後も続くかぎり、うたつかいをどうぞよろしくお願いいたします。

記事のカテゴリー:連載記事, うたつかいな日々
しまだ・さくらこ
1975年滋賀県生まれ。95年京都府立大学女子短期大学部国語科卒業。ファッションアドバイザーとしてアパレル会社勤務後、家業の洋品店を継ぐ。2005年に洋品店を廃業し、新聞販売店へ転業。10年1月に作歌を始める。11年9月から「短歌なzine うたつかい」を、編集長として企画、発行。13年12月、書肆侃侃房より第一歌集『やさしいぴあの』刊行。
Website うたつかいブログ
Website ブログ「さくらんぼの歌」
Twitterid = sakrako0304
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