読者の手に届くまで

中澤系歌集『uta0001.txt』(双風舎)が無事発売されました。5月4日の「第20回文学フリマ東京」では、100冊を完売。紀伊國屋書店新宿本店、大阪・中崎町の葉ね文庫などの書店でも、大々的に展開していただきました。
(火)
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第20回文学フリマ東京

 「第20回 文学フリマ東京」は、心に残る一日となりました。

 定価1,900円の歌集が、いったい何冊売れるのか? たくさん持ち込んで売れ残っても搬出が大変だし、足りなくなっても申し訳ないし……。といささか悩んで事前にtwitterで予約を募ることにしました。予約申し込み39冊だったので、搬入数を100冊としました。

 正直、20冊ぐらいは売れ残るだろうと思い、キャスター付きのトランクを持参していたのですが、午後3時過ぎにはすべて売り切れてしました。驚きでした。

 当日、中澤瓈光(りこう)さんには、貴重な「本人ゲラ」をお持ちいただきました。中澤系がどのように歌稿に手をいれていたのか―――。漢字を平仮名にしたり、句点をいれたり……。「本人ゲラ」から、中澤系の息づかいや推敲過程を感じとっていただけたのではないかと思います。「緊張してしまって……」と、手をふれない方もいたのが印象に残っています。

東京新聞 一首のものがたり

 当日、文学フリマのブースには、「東京新聞 一首のものがたり」の取材が入りました。

 「本多さんはどうしてこのプロジェクトを始めようと思ったんですか?」という質問に「短歌の神様が『これをやりなさい』と、時々わたしにささやくことがあるんですよ」と答えました。この部分、記事にはなりませんでしたが、本当に正直な気持ちです。個人の資質として、クリエイターでなくコーディネーター、ということもあるのですが。

 さて、記事になった中澤系の「一首」はやはり、この歌でした。

  • 3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって

 この日の取材を含めた中澤系の「一首のものがたり」は、「意味を切り裂く銀のカミソリ」として、東京新聞のアーカイブで読むことができます。

 これ以外にも、仙波龍英、小野茂樹、笹井宏之、佐伯裕子といった歌人の「一首のものがたり」を読むことができます。ご一読をおすすめします。

リアル書店の応援 その1 紀伊國屋書店新宿本店

 歌集発売直後、大々的な展開が紀伊國屋書店新宿本店で始まりました。もともと、発刊が決まった時から、詩歌担当の梅﨑実奈さんが「どーーーんと売りますからね!」と言ってくださっていたのですが、まさかここまでとは……。お店にいく前に、twitterから情報は得ていたものの、実際にこのディスプレイを見て息をのみました。

[写真提供:紀伊國屋書店新宿本店]

 版元の双風舎のブログにも、「小出版社のミラクル@紀伊國屋書店新宿本店」として記事が出ています。マイナージャンルである短歌の本を、「俳句・短歌・詩」のコーナーに閉じ込めず、ふつうの本好きのお客さんの目にとまる場所で展開してくださったこと、こころから感謝しています。

 梅﨑さんは、2013年の「この短歌を読め!春の大短歌祭り@紀伊國屋書店新宿本店「短歌フェア」」、堂園昌彦さんの第一歌集『やがて秋茄子へと到る』(港の人)の大規模な陳列の仕掛け人でもあります。これからも、梅﨑さんの<売りたい><存在を知らせたい>という情熱をかきたてる歌集がたくさん生まれることを願っています。(そして第二、第三の梅﨑さんが、全国各地の書店に現れることも!)

 さて、少し話がそれますが、今回、紀伊國屋書店新宿本店のツイッターアカウント(@KinoShinjuku)を眺めていて、気がついたことがあります。

 いろいろな売り場の担当者が、それぞれの分野の書籍やイベント情報を流しているこのアカウント、短歌関連の情報が流れたときのリツイートやファボが、他ジャンルの情報が出たときに比べて、突出して多いのです。大きな書店だし、フォロワーの数も多いし、どのジャンルのツイートもまんべんなく反響を呼んでいるんだろう、と思っていたのですが……。これは、短歌というマイナージャンルだからこそ、「短歌の情報を広めたい」「シェアしたい」という、twitter短歌クラスタの<ジャンル愛>なのかもしれません。

リアル書店の応援 その2 大阪・中崎町 葉ね文庫

 もう一軒、とても力を入れてくれているお店があります。2014年12月に開店したばかりの大阪・中崎町の「葉ね文庫」です。このお店は、とびやまさんこと、池上規公子さん(@tobiyaman)が経営されている一人書店。「歌集・句集・詩集のイケてる新本を扱っています。古本は小説・サブカル・漫画、おもしろいと聞けばなんでも。」がコンセプトです。

 開店当初、風の噂できいたイケてる歌集の仕入れ方が尋常でなく、「池上さん、そんな仕入れ方をして、経営は大丈夫なの?」と心配になるほどでした。中澤系歌集『uta0001.txt』新刻版(双風舎)も、トータルで50冊仕入れてくださいました。通常の書店とは異なり、中澤系プロジェクトからの「買い取り」をしてもらったので、在庫はそのまま葉ね文庫の経営を圧迫してしまいます。

 正直、池上さんの友人としては、はらはらしていたのですが、すでに35冊が売れたとのこと。(※6月11日現在)ああ、よかった!

 詩歌ジャンルに特化した葉ね文庫だからこそ、なのかもしれませんが、火・木・金・土しか営業をしていない(しかも火・木・金は夜だけの営業の)小さな書店から、『uta0001.txt』が35人の読者の手元に届いたことは驚きであり、また大きな喜びでもあります。

 同じように歌集に力を入れている、神戸の「書肆スウィートヒアアフター」と、東京の「古書いろどり」も”買い取り”です。どのお店にも、『uta0001.txt』以外にも魅力ある歌集が揃っているはずなので、お近くの方は、立ち寄ってみてください。

あっという間に、版元在庫がなくなりました

 この原稿をのんびり書いていたら、「版元在庫がゼロになった」との速報が入りました。

 なお、いまのところ重版の予定はありません。

 と、ここまでの原稿を書いたのが6月15日。その後、注文の勢いがとまらないということで、オンデマンド版による重版が決定しました!!

 歌集のオンデマンド版、というと、斉藤斎藤さんの『渡辺のわたし』や永井祐さんの『日本の中でたのしく暮らす』のように、<読みたい人が一冊ずつネットで注文し、出来あがり次第自宅に届けられる>というイメージが強いかもしれません。

 今回の中澤系歌集『uta0001.txt』新刻版(双風舎)のオンデマンド版での重版は、100部程度をまとめて印刷。初版同様ISBNがつき、書店に流通する形です。書店に並べば、中澤系をまったく知らない人が、ふらっと手に取ってくれるかも?といろいろな場面を想像しています。

 初版とオンデマンド版の違いなど、詳細は双風舎のブログの記事「『uta0001.txt』のオンデマンド版について」をご覧ください。


 次回は、2015年6月6日に紀伊國屋書店新宿本店で行われた、中澤系歌集『uta0001.txt 新刻版』刊行記念 宮台真司×穂村弘トークイベント「歌人・中澤系が生きた時代、そして今」の模様をテキスト化してお届けできたらいいな、と思っています。

ほんだ・まゆみ
2004年 「枡野浩一のかんたん短歌blog」に本多響乃(ひびきの)として、投稿をはじめる
2006年 本多真弓として、未来短歌会入会、岡井隆に師事
2010年 未来年間賞受賞
2012年 未来賞受賞
現在も、本多真弓・本多響乃のふたつの名前で活動を続けています。
Twitterid = mymhnd
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