<新刻版>の編集

現在、『uta0001.txt』4月の刊行に向けて、さまざまな準備を進めています。今回は、単純な復刊でなく、<新刻版>として刊行することになった経緯などをお話します。
(月)
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タイトルどうしましょう

 これまでの連載記事の中で、わたしは歌集のタイトルを、雁書館版にあわせて『uta 0001.txt』と表記してきましたが、この記事以降、『uta0001.txt』という表記に変更します。utaと0001の間にスペースが入るか入らないか、という問題なのですが、4月に双風舎から出る版は、『uta0001.txt』という、スペースが入らない表記となります。

 この変更に関しては、2014年9月25日に加藤治郎さん(@jiro57)がtwitterで発言された、「中澤系歌集『uta 0001.txt』新刻版刊行決定は、うれしい!」という一連のツイートと、船山登さん(@mcts08)とのやりとり、また、1997年度未来賞受賞作掲載の「未来」1998年1月号を参考に、黒瀬珂瀾さんにも相談の上、中澤瓈光(りこう)さんと決定しました。

雁書館版の構成

 雁書館版の解説で、さいかち真さんが

中澤さんの第一歌集は、不幸にして作者自身の手によって編まれなかったが、まぎれもない実験的な作品集となるべきはずのものであった。

とあるように、雁書館版の編集はさいかちさんが尽力され、歌集の構成に関しては次のように言及されています。(※原文の年号表記の漢数字を、ネットでの読みやすさを優先して、算用数字にしています。)

本書は三部をもって構成する。第I部は作者自身が考えていた歌集の前半部分である。本人が作っていたインターネットのホームページ上に「糖衣」というタイトルをつけた歌集のための完成原稿が一部公表されていたので、これを決定稿とみなし、第I部とした。そこには「未来賞」受賞作の一連と、受賞後第一作、それから1999年の一年分の作品が整理されていたのである。2000年から2002年までの作品は、第II部とした。1999年以前のものは、習作という意識が本人にはあったと思うので、ところどころ思い切って削り、第III部としてまとめた。(中略)一集の巻末の歌は、作者の現在の境遇と思いあわせてみると、とても単なる偶然とは思えないのであるが、できあがってみたらこうなっていた。

 この巻末歌が、

ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ

という歌です。読書会でも、6人が好きな歌として選んでいました。中澤系プロジェクトを進めるなかで、繰り返しこの歌集を読みましたが、この歌にたどりつくたび、わたしの心はぎゅっと掴まれてしまいます。

 イラストレーターの安福望さんが、<一日に一首と一枚、好きな短歌から絵を描きます>という「食器と食パンとペン」(@syokupantopen)でも、この歌が取り上げられています。

“1/6 ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ(中澤系)”
安福望さんのご了解のもと、転載させていただきました。その他の絵はこちらのブログ「食器と食パンとペン」でご覧になれます。

紙に印刷された<本人版>があった!

 ご家族の気持ちが固まって、実際に「歌集を復刊しましょう!」となった時点でわたしがイメージしていたのは、本の装丁や判型などは変わるとしても、収録歌、栞、解説など、基本的には雁書館版を踏襲する、というものでした。

 ところが……。2014年7月、双風舎と中澤瓈光さんの間で出版が本決まりになり、瓈光さんがあらためて中澤系さんの部屋に残されていたノートやメモ類を整理したところ、系さんの字の書き込みがある大きなクリップでとめられたA4の紙の束、<本人版>のゲラを発掘されたのです! 勝手に<本人版>と呼んでしまいますが、これは、A4版の紙に、縦書きで1ページあたり3首が印刷されており、歌集となった場合のページを想像しやすい形のもの。もし自分が歌集を作ることになったら、最初にこうした形で歌稿を印刷するだろうな、と思えるものでした。

中澤系さんの遺品から発見された<本人版>

 <本人版>には、新たにつけられた小題があったり、未来掲載時から小題が変更になったものがありました。歌自体に、未来掲載時から多少手が入っているものも……。また、赤ペンと青鉛筆で校正されている箇所もあり、「この読みにくいお兄ちゃんの字が読めるのはわたしだけ」という瓈光さんに細かくご確認いただき、表記を確定しました。

 双風舎版では、瓈光さんをはじめとするご家族のご意向で、<本人版>を優先した表記にした歌や、歌の収録箇所を変更したところがあります。詳しくは、双風舎版に瓈光さんが書かれる予定です。

(このように書いてしまうと、雁書館版から大幅に変わってしまう印象を持たれるかもしれませんが、基本的には雁書館版の三部構成を踏襲しています。)

2014年7月7日、瓈光さんが書かれたFacebookの記事

こちらに、中澤系さんがご自身で用意されていたゲラの発見と、そこに書かれていた詞書がもたらしたとても素敵なエピソードが書かれています。雁書館版には載っていなかったこの詞書が瓈光さんの胸に響いた瞬間のことを、是非お読みになってみてください。

<本人版>の息づかい

 先日、瓈光さんに<本人版>を見せていただきましたが、赤ペンと青鉛筆の書き込みが強く印象に残りました。ふだん歌会をともにしている仲間であっても、その人がどんな字を書く人なのかということは、手紙のやりとりでもしない限りほとんどわかりません。「中澤系って、こういう字を書く人だったんだなあ」と思いながら<本人版>を拝見しました。

<本人版>の中の書き込み。左図では「あお」を「青」、右図では「ひきつづけ」を「引き続け」とすることが、中澤系さんの特徴のある字で書かれている。

 「さいかちさんが雁書館版を編集するとき、なぜ、この<本人版>を使わなかったの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。わたしも不思議に思ったので、この点を瓈光さんにうかがいました。お母様がさいかちさんに編集を依頼したときは、「中澤系がホームページに準備していたもの」と「未来」に掲載された歌をもとにする、ということで、<本人版>について特に話が出ることがなかったとのことでした。

 系さんが寝たきりになってしまった時点で、お母様は、「なんだか分厚い紙の束が置いてあるなあ」という認識はされていたそうですが、中身を細かくご覧になることはなかったとのこと。瓈光さんも実際に、系さんの部屋に残されたさまざまなノートやメモ類を確認するまでは、<本人版>に書き込みがあることを知らなかった、とのことでした。

 さいかちさんが雁書館版を編集される時に、この<本人版>の存在をご存じだったら、また違った形で歌集が編まれていたかもしれません。

双風舎版について

 次回はもう少し、双風舎版の内容について、お知らせできるといいなと思っています。

ほんだ・まゆみ
2004年 「枡野浩一のかんたん短歌blog」に本多響乃(ひびきの)として、投稿をはじめる
2006年 本多真弓として、未来短歌会入会、岡井隆に師事
2010年 未来年間賞受賞
2012年 未来賞受賞
現在も、本多真弓・本多響乃のふたつの名前で活動を続けています。
Twitterid = mymhnd
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