不思議な読書会・その2 歌集が足りない
歌集が足りない
前回お話したように、ご家族のところにある歌集は10冊だけ。「中澤系歌集『uta 0001.txt』を読む会」への参加希望者はそれを上回りました。抽選で、歌集を購入いただく方を決めたあと、残りの参加者の分はどうしよう、という悩みがありました。
ご家族の許可を得て、歌集の全ページをコピーして参加者に送ろうか、とも思ったのですが、作業量的なことと、「歌集復刊」を目指す読書会というコンセプトからはちょっと外れてしまうのではないか、という気持ちからこの方法は断念。いろいろ考えて、中澤系の短歌をツイートしている、中澤系bot(@nakazawakei_bot)を利用させてもらうことにしました。
わたしから「歌集がお手元にない方は、ツイッターの中澤系botをご覧の上、読書会に参加してください。」という告知をしたのですが、すぐに参加者の方がボランティアで、botから短歌を集めてくださいました。温かいフォロー、とてもありがたかったです。
この時点では、中澤系botをどなたが運営しているのかわからなかったので、中澤系さんの妹さんである中澤
5首選アンケート
「読書会、どうやって進行しようかな?」と考えたときに、参加者がフラットにコメントできる形がいいと思い、事前に5首選のアンケートをお願いしました。参加者それぞれの5首選が一覧表になっていれば、こういった会に初めて参加する人も話がしやすいのではないか、と思ったからです。
ただし5首選といっても、歌集から選んだ人と、中澤系botという、歌集とは配列順が異なり、歌の数も圧倒的に少ないものから選んだ人では、もともとの「母体」に差があります。けれども、この母体差があったからこそ、読書会のあと「やっぱり歌集一冊をまるごと読んでもらいたい」というわたしの気持ちがふくらんだような気がしています。
この日、複数の人が選んだ歌を、いくつか引いてみます。
- 3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって
- メリーゴーランドを止めるスイッチはどこですかそれともありませんか
- 糖衣がけだった飲み込むべきだった口に含んでいたばっかりに
- こんなにも人が好きだよ くらがりに針のようなる光は射して
- ゆうぐれの電車静かにポイントを渡る今からおまえが好きだ
一方、ただひとりの人が選んだものには、こんな歌がありました。
- ハンカチを落とされたあとふりかえるまでをどれだけ耐えられたかだ
- 都市というオートマティズム思うとき料金所抜け、先に渋滞
- 残余などあり得ない でも今日は午後休んで野球を見に行きました
- 意図なんかしたくはないさひるひなかフレンチフライのMくらいしか
- そうでありなおかつそうでしかないと思う、ここでは牛乳を飲む
また、石川美南さんも、この読書会の5首選のスタイルに合わせて、砂子屋書房の「日々のクオリア」(2014年8月24日)で、中澤系の短歌を取り上げてくださいました。
読書会でおもしろかったこと
読書会で、個人的におもしろかったのは、この歌をめぐる解釈でした。
- このままの世界にぼくはひとりいてちいさなくぼみに卵を落とす
ある参加者から「これって、チキンラーメンに卵をのせているのでは?」という発言があったのです。言われてみれば、日清食品のチキンラーメンには「たまごポケット」という卵をのせやすいようにつけたくぼみがあります。自分ひとりで歌集を読んでいるときには、まったくなかった発想なので、びっくりすると同時に、なるほど、と思いました。<他者と一緒に歌集を読む>ということのおもしろさを感じた瞬間でした。
短歌botの影響力
読書会の際、参加者に5首選とともにお願いした「中澤系の短歌との出会いについて」というアンケートには、
(ツイッターの)TLで突然流れてきたbot。雷に打たれたようでした。まるでヘレン・ケラーがwaterと叫んだように……。私も何かが降ってきた気がしたのです。
短歌を始めた時にTwitterで出会い、大きな刺激を受けました。一つの目標とも言える存在です。
などのコメントがありました。
また、2014年11月1日発行の「外大短歌 第五号」(東京外国語大学短歌会の機関誌)に掲載されていた座談会『短歌と私、私たち』にも、こんな発言を見つけました。
永山 中澤系さんとか好きな歌人に挙げてらっしゃいますしね、高畠さん。
高畠 ツイッターのボットで知っただけなんで、不勉強で、全然どういう方か存じ上げてないんですけど。
このように、ツイッターという場における「短歌bot」の影響力、浸透力は、わたしが想像していた以上にあるのかもしれません。
ゲラが届きました
2014年12月。『uta 0001.txt』新刻版のゲラ(校正刷り)が届きました。「新刻版」という名前からもおわかりいただけるかと思いますが、旧版とは、少し異なる内容で編集作業を進めています。このゲラから、やがて一冊の歌集になっていくのだなあ、と思うと、感慨深いものがあります。
次回は、新刻版の進捗状況について、お話ができたらいいなと思っています。