てさぐりで進む

2012年春――。今回は、<中澤系プロジェクト>がネットから飛び出して、リアルな世界で動き始めたころの出来事をお話します。
(水)
投稿:

妹さんから連絡が

 やみくもに走り出したわたし(※連載第1回参照)に、数週間後、中澤系さんの妹さんの中澤瓈光(りこう)さんから、Twitter経由で連絡が来ました。Twitterで告知し、Meityで集計していた【もしも歌集が復刊されたら○冊買います署名】の数がある程度集まったら、きちんとご家族に連絡をしなければ、と思っていたところでした。2012年4月のことです。

 このあたりの手順、いま冷静に振り返ってみると、ひやひやしますね。結果的に、瓈光さんが、歌集の復刊に全面的に協力してくださったのでよかったのですが……。一歩間違えたら「中澤系の歌集のことで、Twitterでなにやら活動している人がいるらしい。いったいどういうこと?」と、ご家族に不信感をもたれてもおかしくない状況だったと思います。

Meityに寄せられたコメント

 当時、Meityの中澤系プロジェクトには、こんな書き込みが寄せられていました。暗中模索のわたしを支えてくれたコメントを、転載の了承をいただきましたので、いくつかご紹介します。

龍翔さん @ryusho0510
こんばんは。龍翔です。
以前から中澤さんのお名前を知りつつも、最近になって初めてbotをフォローしました。
御歌の魅力にすっかり虜になってしまいました。
値段に関わらず、1冊は購入できます。
目指せ!!復刊!!ですね!!
魚虎豆太郎さん @mametaro_u
魚虎豆太郎と申すものです。
つねづね入手したいと思っていた歌集なので、復刊が実現すれば本当に嬉しいです。
復刊されるのであれば、とりあえず価格は関係なく1冊購入します。よろしくお願いします。
虫武一俊さん @mushitake
虫武です。ご連絡ありがとうございました。
中澤さんの歌は以前から評論などでよく引用されるので拝見しているのですが、
原本を見ることができずいつももやもやとした感じでおりました。
値段にかかわらず一冊は買いたいと思います。
ユキノ進さん @susumuyukino
ユキノ進です。2800円でも1500円でも1冊買います。実現するといいですね。

価格のこと

 コメントの中で、歌集の価格のことが出てくるのは、<「もし、2,800円で復刊されたとしたら」「もし、1,500円で復刊されたとしたら」歌集を何冊買ってくれますか?>という設問で署名を募ったためです。2,800円というのは、雁書館版の定価が2,700円だったため、「ハードカバーで出すとしたら、このぐらいになるのかなあ」というわたしの読みでした。1,500円という想定は、「最近短歌を始めた若い人たちに、この歌集を読んでもらいたい。そのためにはできるだけ安くないと……。ソフトカバーでシンプルなものだったら、なんとかこのぐらいの価格にならないかな」という希望によるものです。

 「何冊買ってくれますか?」というのも、いささか乱暴な設問ですね。この時は「もしも復刊されたら、○冊、確実に購入してもらえます」という、復刊に向けて、説得力のある数字が欲しかったのだと思います。(誰をどう説得すればいいのか、ということは、明確でないままに……)

 現在、双風舎で出版準備中の新刻版は、後者の価格の方向で進めています。さすがに1,500円というのは難しいのですが、この歌集が本当に必要な人に届くよう、できるだけ手に取ってもらいやすい価格を目指しています。

顔合わせ

 2012年5月。横浜で、中澤瓈光さん、未来短歌会のさいかち真さん、朽木(くつき)(ゆう)さん、わたしの四人で顔合わせをすることになりました。

中澤系『uta 0001.txt』(雁書館:2004年3月3日初版第1刷)の目次。編集後記:さいかち真、解説:岡井隆、装幀:小紋潤

 さいかちさんは、雁書館版の『uta 0001.txt』を編集された方。経緯が編集後記に書かれているので、一部引用します。(※原文の漢数字を、ネットでの読みやすさを優先して、算用数字にしています。)

中澤さんは、1997年からほぼ毎月欠かさず10首ずつ岡井隆選歌欄「曲がれる谿の雅歌」に作品を出し続けていたが、2001年8月号以後、ぱたっと作品を出さなくなった。病気入院のため、ということであった。2002年の6月号と7月号に載った作品が最後のものだった。

 さいかちさんには2003年の夏に、中澤系さんのお母様から連絡があり、歌集刊行の依頼を受けたそうです。その時、中澤系さんが進行性の難病で、意思表示もままならない状態だということがわかったとのこと。このように『uta 0001.txt』の初版は、さいかちさんの尽力があって、世に出た歌集だったのです。

こちらは『uta 0001.txt』につけられていた全8ページの栞。執筆は、穂村弘「未来の声」、加藤治郎「utaのために」、佐伯裕子「焦燥感に満ちた口語歌」

 さいかちさんは、詩客の「日めくり詩歌 短歌」にも、中澤系に関する文章を書かれています。「日めくり詩歌 短歌 さいかち真(2012/01/09)」を合わせてお読みいただけたら、と思います。

 朽木さんは、歌集復刊を希望されておられ、かつ、横浜在勤ということで同席をお願いしました。横浜は瓈光さんにも、わたしにもアクセスがいいところ。この先、中澤系プロジェクトがどうなっていくか、まったくわからない状況だったのですが、ぼんやりと「横浜で何かやりたいな」と思っていたのかもしれません。ちなみに朽木さんが未来に入会したのは2011年。2006年に未来に入ったわたしと同じように、生前の中澤系さんとの面識はありません。

中澤系歌集『uta 0001.txt』を読む会へ

 実際に顔を合わせ、さまざまな情報交換をするうちに、Twitterで呼びかけて、<中澤系歌集『uta 0001.txt』を読む会>を開こう、ということになりました。次回はこの読書会のことを中心にお話したいと思います。

ほんだ・まゆみ
2004年 「枡野浩一のかんたん短歌blog」に本多響乃(ひびきの)として、投稿をはじめる
2006年 本多真弓として、未来短歌会入会、岡井隆に師事
2010年 未来年間賞受賞
2012年 未来賞受賞
現在も、本多真弓・本多響乃のふたつの名前で活動を続けています。
Twitterid = mymhnd
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