「さまよえる歌人の会」への12の質問
Q:1
参加人数やレポーターの数について適切な数はありますか?
A: 参加人数は、20人以下の方が一体感があると思います。30人を超えると、全員に1回ずつ回すだけで精一杯。人数が少ないときは少ないなりの充実感があって楽しいのですが、レポーターを持ち回りにするのであれば、メンバーが7~8人くらいはいた方が、会を継続しやすいかもしれません。
レポーターは、1歌集2人体制がオススメです。2人いると、違う角度から歌集を眺めることができるので。
Q:2
勉強会や合宿を続けるのは大変だと思いますが、どういうときに良かったと感じますか?
A: うーん、まず、「続けるのが大変」という感覚はあまりないです。会場予約(石川)と二次会予約(牧野芝草さん)以外は係分担もなく、経費の計算もアバウト、初参加の人に気を遣う訳でもなく、やりたくないことは一切やらない……という実に大雑把な運営なので。
逆に、良いことはいっぱいあります。
一番根本的な「良いこと」は、さまよえる歌人の会で歌集を読むと、その歌集が、一人で読んでいた時よりも確実に面白く感じられるようになる、ということですね。歌集って、小説以上に行間が大きいから(比喩的な意味で)、一人で読んでいるときも色々な角度から味わえるものだと思うんですけど、みんなで一緒に読んでいると、「その発想はなかった!」という意見が、ぼろぼろ出てくる。その意見に100%賛同できる訳じゃなくても、意外な方向から照らされることで、自分の読み方も深まっていく。それが醍醐味だと思っています。
あと、私はとても人見知りなのですが、さまよえる歌人の会に参加していると、自然と友だちが増えていくので、嬉しいです。
Q:3
勉強会の会場探しや準備、運営などでなにかコツやポイントのようなものはありますか?
A: 会場は、できるだけ公共の施設から選ぶようにしています。2ヶ月前くらいから予約できるところが多いです。
テキストは、筑摩の『現代短歌全集』に入っているものや、現代短歌社の文庫や邑書林、砂子屋書房のシリーズに入っているものだと、比較的安価に入手できます。作者の方のご好意で、勉強会用に数冊プレゼントしていただくこともあります(ありがとうございます!)。
会場選びもテキスト選びも、できるだけお金のかからない方法を選んだ方が、多くの人に参加してもらいやすいです。
レポーター決めと次回のご案内は、遅くとも開催1ヶ月前に……と思っているのですが、たまにサボってご連絡が遅れます。すみません。
レジュメの印刷は、レポーターの方に前日メールをして、人数分コピーしていただいています。コピー代は会費からお支払いします。
運営のコツは、「できるだけ楽にやる」。これに尽きるんじゃないでしょうか。性格によると思いますが、私の場合、ルーティンが増えていくとすぐ嫌になってしまうので、抜ける手は全部抜こうと開き直っています。たまに、抜きすぎて崩れかけてますが。
Q:4
うまくレポーターを務めるには、どのようなことを意識すれば良いでしょうか?
A: レポーターの方には、好きな時間、好きなように喋っていただくのが一番だと思います。20分くらいできちっとまとめてくださる方もいれば、1時間10分ひたすら一人で喋り倒した伝説のレポーターもいます(光森さんです)。
強いて言えば、レジュメを作る際は、短歌の引用多めの方が嬉しいです。あまり歌集を読み込めないまま来た人も、レジュメを見て話に参加できるので。
あとは……なんだろう、引用歌を読み上げるときはゆっくりめで、とか。
あ、そうだ、私の場合は、発表の最初にどうでもいい冗談を言うと、スベった勢いで自分の緊張がほぐれることがあるのですが、スベりすぎてリアルに凹むときもあるので、匙加減が難しいです。
Q:5
初めて参加するとき、課題歌集をどこまでどのように読んで参加すると良いでしょうか?
A: これも、各自のペースで読んできていただければ大丈夫です。「わからない言葉や文法は全部調べる」という熱心な人もいるし、「とりあえず最初から最後まで読み通しただけ」という人もいます。
連載でもご紹介しましたが、後半に全員が「わたしの好きな一首」を発表するコーナーがあるので、「好きな一首」を探しながら読んでいただくと、当日あわてて探さなくてすむかもしれません。まあ、でも、だいたいみんなその場であわてて探してます。
Q:6
新人賞作品を扱う勉強会があると聞きましたが、どのような内容で、普段の勉強会とは異なるところはありますか?
A: 毎年12月(12月がお休みの年は11月)は、その年の歌壇賞、短歌研究新人賞、角川短歌賞を振り返る特集をしています。この回は、各賞につきレポーター1名で、受賞作および気になる候補作についてレポートしていただいています。
その年の新人賞を一気に振り返る良い機会なので、出席人数も多めです。
Q:7
取り上げる歌集や合宿の内容がバラエティに富んでいますが、どのようにして決まるのでしょうか?
A: 行き当たりばったりです。歌集は、出席した方から推薦があれば、それに挑戦します。三和今日子さんの推薦で読んだ折口春洋歌集『鵠が音』とか、すごく面白かったですね。自分ではなかなか選ばない歌集だと思うので。基本的には、同じ歌人は二回取り上げないようにしています。あとは、比較的新しい歌集が数ヶ月続いたら、次は60年代辺りの歌集にしてみよう、とか。
さまよえる合宿は、「前の年と違うことをやる」というルールだけ決まっています。だいたい春の終わり頃にテーマを決めて、いろいろな人と相談しながら少しずつ形にしていく感じです。「30時間で100首作るのはさすがに無理だから、80首にしとこう」とか、「山に登るならバスをチャーターする手があるよ」とか、「宇治に合宿向きの宿があるよ」とか、「岐阜観光なら任せて!」とか、「石川さんが壊れたときは後を引き受けます」とか、そういうアドバイスをもらっています。
Q:8
会を続ける中で、参加される方や会自体の変化はありましたか?
A: 参加メンバーは、どんどん変化していきますね。むしろ、発足当初からずっと参加している人の方が珍しいです。
最初期から断続的に参加しているのは、設立メンバーの内山晶太さん。あと、いまちょっとお休みしていますけど、今井聡さんは、さまよえる歌人の会の精神的支柱です。今井さんがいるといないとでは、会の安定感が全然違うんです。ここ一年、合宿以外は皆勤賞なのが三和今日子さん。めちゃくちゃお世話になっているのは牧野芝草さん。牧野さんが参加するようになってから、二次会に移動するとき、道に迷う人がいなくなりました。以前は、数百メートル移動するだけでも辿り着けない人が続出していたんですが、今は牧野さんが最後尾に付けて迷える子羊たちを誘導して下さるので、安心です。牧野さんがお休みのとき、内山さんに最後尾をお願いしたら、内山さん自身が行方不明になりました。
最近は、学生短歌会周辺の人たちが時々参加してくれるようになって嬉しいです。評の切れがいいし、短歌への愛も深いし、すごい刺激になります。
逆に、仕事が忙しくなったり、結婚したり、南の島に引っ越しちゃったり(光森さんです)、いろいろな理由で足が遠のいている人もいます。もしかしたら、会の雰囲気が合わず、そっと離れていった人もいるのかもしれません。でも、何年出席していなくても、またタイミングがあった時にふらっと参加できるのが、さまよえる歌人の会の良いところかな、と思っています。誰にとってもホームじゃないし、誰にとってもアウェイじゃない、という感じ。その意味では、変化したとも言えるし、変化していないとも言えます。
Q:9
会を続ける中で、石川さん自身に変化はありましたか?
A: ど、どうでしょう。人前に出ると緊張するのも、大雑把なのも、一言多いのも、レジュメの完成がぎりぎりなのも、変なタイミングで笑って話の腰を折るのも、一向に改善される気配がないです。すみません……。
単純に、好きな歌集が増えたのは嬉しいです。あとは、さっきも書きましたが、友だちが増えました。去年のさまよえる合宿の時、ふと見回したら右も左も好きな人だらけで、死ぬ前に見る走馬灯ってこういう感じかな、とほんのり怖くなりました。
Q:10
これから勉強会や合宿でどのようなことがしたいですか?
A: うーん、常に行き当たりばったりなので、なんとも言えないですね……。
合宿に関しては、2月のさまよえる歌人の会で「今年は『万葉集合宿』にする?」という声が上がったのですが、それだと、最低でも1ヶ月は合宿しないと読み終わらないですよね(無理)。去年の合宿で吉岡太朗くんが「洞窟探検吟行」を提案していて、それも面白そうだなと思ったんですけど、ノリノリで反応していたの、私だけでした。あと、去年旅行している時に見かけた三陸国際芸術祭が夢のように美しかったので、また開催されるなら、それに合わせて三陸吟行とか。涼しい信州とか……あれ、自分が行きたい場所を挙げているだけかも(笑)。
Q:11
今後、さまよえる歌人の会がどのようになると素敵なことだと思いますか?
A: 行き当たりばったりのまま、10年後も続いていたら面白いなと思います。「来年はもう体力的に無理だよー」と言い合いながら、年に一度、合宿に行きたいです。
Q:12
連載おつかれさまでした。最後にひとことお願いいたします!
A: 6回の連載を通じて、歌集勉強会の面白さが少しでも伝わっていたら嬉しいです。さまよえる歌人の会は今後も続いていくと思いますので、ご興味にある方はぜひご参加ください。たまに「怖そう」とか「敷居が高い」とか言われることがあるのですが、全然怖くないです。
また、さまよえる歌人の会だけでなく、あちこちで歌集勉強会が開催されるようになったら良いなと思っています。
ありがとうございました!