短歌結社の5年を数える

数字やグラフを通して短歌の世界を覗いてみる「試験に出ない短歌の数字」。第4回目はこの5年間で、結社の数がどのように変化したのかを追います。毎回「数えて満足」で終わっている気もしますが……気にせず数えます。
(金)
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 昨今、高齢化や会員減について、特に語られることの多い短歌結社。KADOKAWA・短歌研究社の『短歌年鑑』でも、その点についての言及がありました。また、今年の夏には総合誌『現代短歌』7月号・8月号の2号に渡って「結社の力」という特集が組まれ、話題になりました。それぞれの記事から、結社の現状について書かれた箇所を引用してみます。

 今日の文学としての状況や、短歌の本質論に触れる問題から、この一年を展望したいところだが、結社の衰退ぶりが目に障ってならない。創刊百年を迎えられる「水甕」「国民文学」また「潮音」においても、高齢化にともなう会員の漸減が起きる。出詠者の減少といった現象は、おおむね各誌に相通じる。その一方で結社離れが顕著であり、ちなみに今年度の総合誌における新人賞の候補作者を見ても、「所属なし」の若者がきわだつ。

篠弘「結社問題と震災詠」(『短歌年鑑 平成27年版』:KADOKAWA) 特集:回顧と展望
 今年はいろいろな意味で結社が話題になったようです。聞くところでは、結社雑誌で休刊あるいは終刊するものがかなりあったということです。十数年前に「アララギ」が消滅して、それ以降、高齢化の問題等々もあって結社の数が減っているのかなあと思います。

佐佐木幸綱(『短歌研究』2014年12月号:短歌研究社)二〇一四年歌壇展望座談会での発言より
 平成十年の一月に私たちの「新アララギ」は宮地伸一を代表として「生活の真実を歌う」ことを旗印に発足した。その時の会員は約三千人、歌誌のページ数は二百四十ページを数年間は維持していた。しかし、この十五年間に会員の数は、ほぼ半減した。始めから高齢者の多い集団だったので、そのことは或る程度は予測されていたが、その減り方のスピードは私の予想をはるかに超えていた。現在のページ数は、百四十ページ程である。発足当時にくらべ、百ページの減ページである。これが、もう少し小さな会で起ったとすれば、会そのものがとうに消滅したであろう。

雁部貞夫「高齢化の波のはざまで ――新アララギの場合」(『現代短歌』2014年8月号) 特集:結社の力II

 どうにも悲観的な印象ばかりを受けられるかもしれませんが、記事はいずれも結社の現状を提示したうえで、各結社のさまざまな取り組みについて語るものです。各誌ともまだ入手しやすいと思いますので、是非とも各記事をご確認いただきたいと思います。

 もちろん、今年になって結社の現状が課題としてあがってきたのではなく、記憶をたどれば昨年の2013年にも「うた新聞」における結社の特集が話題になっていましたし、2011年の短歌研究社の短歌年鑑でも言及されていました。どこまでも遡れる問題だと思われます。

 私の所属するコスモス短歌会は質量ともに現代の有力結社の一つといってよいかと思うが、ご多分に洩れず会員の高齢化と会員数の減少傾向が進行している。加えて、若手の会員数をいかに増やすか、また高齢者と若手・中間世代との交流をいかに親密なものにするかが、当面の課題である。

武田弘之「選者定年制の実施、その他 ――異世代を繋ぐ」(「うた新聞」2013年5月号:いりの舎)
 各統計を作成していて、発行所住所録の件数の大幅な減少に、おどろいています。歌人名簿は個人情報の問題もあり実数と重なりませんが、発行所住所録は公表されるべきものなので、それが前年より一〇〇件も減少しているということは、その雑誌、その団体に所属しておられた方々が発表の場を失うことでもあり、その後の動向が案じられます。

堀山和子(『短歌研究』2011年12月号:短歌研究社)memo december(編集後記)より

 過去に私個人のブロクで結社の情況を調べたことがありました。こちら、短歌結社・同人誌などの状況(1980年,2012年の比較):GORANNO-SPONSOR.com にてご確認いただけます。

 そのときは、1980年と2012年を比較しました。およそ30年の時間の流れの中で、結社数は22.4%減となり、その推定会員数(出詠者数)も46%減となりました。ただ、30年の経過の中で一定の割合で減少したのか、それとも例えば最近になって急激に減ったのかは分からず、そのことが気にかかっていました。

 そこで今回は、この5年間に絞って結社の情況を見てみることにしました。

 調査にあたって使用したのは、角川短歌1月号増刊『短歌年鑑』の平成22年版から平成27年版、つまり、2009年から2014年の12月に刊行されたものです。各『短歌年鑑』の「全国結社歌人団体 住所録・動向」に掲載されている情報をつぶさに調べていきます。

 御存知のとおり、同様のデータは短歌研究社の『短歌年鑑』(各年の12月号)にもあるのですが、角川の『短歌年鑑』は各団体に、結社・同人誌などの区分が書かれているため、各組織の増減をつかみやすいです。また、すべての組織が記しているわけではありませんが、「動向」として該当年度の情況が書かれており、単に組織が増えた・減った以上の情報が得られる点も非常にありがたいです。

 ただし、この組織区分が記されているのもどうやらここ5年ほど(と、約30年前)だけのようですので、残念ではありますが、過去数十年にわたって年ごとの変化を調べることはできません。前回も同じようなことを書いた気もいたしますが、データはできるだけ細分化したうえで、同じ視点で継続的に記録する、ということの大切さは強く訴えたいところです。

 話を戻しましょう。2009年から2014年の『短歌年鑑』の「全国結社歌人団体 住所録・動向」から、「結社」に区分されている組織のみを抜き出します。ただし、結社の支部組織に関しては対象外としました(例:「水甕」や「コスモス」などの支部)。各年の『短歌年鑑』を追いながら、リストから消えた結社を便宜上「終了した結社」と判断しました。結果は次の図の通りです。

図1.短歌結社数の推移:2009年~2014年[データ元:KADOKAWA『短歌』1月号増刊『短歌年鑑』の平成22年版~平成27年版]
  • 5年間の推移(2009年~2014年)
    • 2009年から2014年にかけて、短歌結社数は288社から246社へと14.6%減少した。
    • 期間中に終了した結社は44社。新設された結社は2社であった。

 比較のために、以前の調査結果を記します。

  • およそ30年間の推移(1980年~2012年)
    • 1980年から2012年にかけて、短歌結社数は335社から260社(*1)へと22.4%減少した。
    • 期間中に終了した結社は167社であり。新設されたのは92社(ただし、期間中に新設かつ終了した結社があったとしても、数には含まれていない)。
*1 「5年間の推移」のグラフでは、2012年は263社となっている。この違いは、組織区分が不明であった組織についても、たとえば動向欄にて発行誌を結社誌と呼んでいる場合など、精査した上で「結社」として扱うようにしたものがあるため。

 2つの調査は一概に比較することが難しいのですが、終了した結社と新設された結社の比率で見るのがわかりやすいでしょうか。ここ5年間では、44社が終了する間に新設されたのは2社(大雑把には20:1)、およそ30年間では167社に対して92社(大雑把には2:1)。つまり、近年は新たな結社が登場しない状況、ということが言えると思います。

 5年間で14.6%減少するものが、30年でどれだけ減少するかは単純に計算できるものではないので、想像はみなさまにお任せいたしますが、さすがに22.4%減では済みそうにありません。

 なお、ここ5年間の各結社における出詠者数の変遷も調べてみましたが、およそ3分の1の結社が出詠者数を5年間更新していないようです。動向欄にて会員減少が課題となっていることを報告していながら、出詠者数を更新していない結社もいくつか見受けられました。そのため、厳密は調査はできないと判断しています。

 それでもざっくりと計算したところ、出詠者数の数字が全て正しいと仮定した場合、ここ5年間では結社あたりの出詠者数はおよそ6%減でした。一方、5年間に一度でも出詠者数を変更した結社に絞ると、出詠者数はおよそ16%減でした。「出詠者数はここ5年間で6%~16%減」と考えてよいかと思います。総務省統計局の「人口推計」によると2009年と2014年の日本の人口(10代以上)はほぼ同じで、むしろ2014年の方が多いぐらいですので、人口はその説明要因になりません。いずれにせよ、出詠者数も結社数同様、減少傾向です。

 ……あまり景気の良い話にはなりませんでした。

 結社の全体数が減少する中でも、若い会員をしっかりと増やしていく結社はあるでしょう。そのノウハウの共有だけではなく、より体力のある組織を目指して複数の結社が合体したり、あるいは、編集・配送機能のみを独立させて共有する流れもでてくるかと思います。もう少し自由に考えるのであれば、歌集出版社や総合誌出版社がビジネスとしてそこを担ってもよいと思います。「生きるための力」を如何に効率化し(たとえコストをかけてでも)、「生き延びるための力」にどこまで回せるかが鍵となりそうです。

 結社が衰亡しても、インターネットがあれば短歌の世界は大丈夫、ということはあり得ません。結社の数が14.6%減ったのはあくまでも現象としてあらわれたことのひとつであり、その背景には短歌についての大きな何かが14.6%も逸失されたのだ、という視点を持ちたいと思っています。

 その意味において「今、結社はどうすべきか。結社に何ができるか。」だけではなく、「今、短歌はどうすべきか。短歌に何ができるか。」という話し合いや、その先に生まれる、無謀で危なっかしくてひやひやさせられて、それゆえ誰もが手助けしたくなるような素敵な挑戦も必要だと感じています。

みつもり・ゆうき
1979年兵庫県生まれ。2008年「空の壁紙」50首で第54回角川短歌賞受賞。2010年、第一歌集『鈴を産むひばり』を上梓。翌年、同歌集にて第55回現代歌人協会賞受賞。第二歌集に『うづまき管だより』。沖縄県在住。
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