嶋田さくらこさんへのインタビュー<前編>

(tankaful編集部:光森)連載最終回は、嶋田さくらこさんへのインタビューです。とても長くなったので、”最終回”ながら三部に分けてお届けします! <前編>の今回は、「うたつかい」のはじまりや、ネットでの公開の可能性についてお聞きしました。
(水)

短歌をはじめたきっかけ、「うたつかい」をはじめたきっかけ

光森  第1回目の記事「うたを詠みたい・うたを読みたい投稿」では「うたつかい」がどのように始まったかと合わせて、嶋田さんご自身が短歌と関わるようになったきっかけに触れていただきました。嶋田さんのきっかけは、いわゆる「夜はぷちぷちケータイ短歌」ではなかったということですよね。

嶋田  そうですね。私はツイッターですね、入り口は。

光森  「夜はぷちぷちケータイ短歌」の流行りや終了に合わせて、ツイッターでの短歌が盛り上がってきたという流れがあるなかで、そうではなく、ツイノベからツイッターに入って、そこで短歌と出会い、田中ましろさんなどの活動をみて「うたつかい」を、ということですね。

嶋田  結局、私はラジオや新聞など、短歌が世の中に出るところとほとんど交わってこなかったんです。ただ、ツイッターで短歌のお友達ができた瞬間から、すでにツイッターで短歌を流していた人は、短歌のイベントやラジオに触れている方ばかりだったんで、自然とその方たちから情報が入ってくるという形でした。
 その人達が「夜ぷち」の話をしているので、私も投稿してみようかなと。最後の方は、私も「夜ぷち」にちょっと投稿してみたりしましたね。

光森  記事のなかで、「当時ご自身が読みたい歌がインターネット上にしかないのが不満でした」ということが書かれていましたけれど、たとえば世の中には短歌の雑誌や歌集は存在していますよね。

嶋田  私はすごい思い込みをしていまして、世の中に口語短歌というのか、今、私が作っているような口語の短歌の本は売っていないと思っていたんです。本屋さんにも行きもせず、世の中の短歌は学校でならったようなものばっかりだと思いこんでいたんです。与謝野晶子とか。
 そういうのじゃなくて、今の私の身の回りの人たちの、リアルな短歌が読みたいと思っていたんです。それは、元をただせば、「うたらば」の影響やと思うんです。自分のお友達がツイッターで流す短歌や、「うたらば」に投稿されている短歌を読むのが楽しかったので。
 今はもう無いんですが「ブックス・ダンタリオン」さんという手作りの本ばかりを売る本屋さんがありまして、リトルプレスという形の本や、今、私がつくっているZINE(ジン)の販売をしている本屋さんやったんです。
 その本屋さんに短歌のそういう冊子がなかったんです。詩はあったんですけど。で、私は世の中に短歌の冊子はないと思いこんで。今になっておもえば、学生短歌の人たちはずっと冊子作っているし、文フリ行けば山ほどあるんですけれど。まだ文フリも知らなかったんで。

光森  たしかに、その当時のことを考えると、学生短歌会のツイッターアカウントがあったような記憶はないですし。結社や短歌の同人誌、総合誌のツイッターアカウントもないですよね。

嶋田  そうですね。私がツイッターをはじめた2010年の冬頃ですよね。

光森  でもたとえば、口語を中心とした短歌というと、俵万智さんの本については?

嶋田  あ、それなんですけれど。俵万智さんの本は、振り返れば家にあったんですよ。いとこからもらってあったのを、短歌を始めてから2年ぐらいしてから発見しまして。「俵万智」という名前を知っていただけで、短歌自体はぜんぜん知らなかったんですよ、私。
 ツイッターで短歌を作ったり、他の人の短歌を読むようになってから、あ、俵万智さんの短歌ってこれなんやということに気がついて。だから、結局なにも知らなかったんですね。ほんまに与謝野晶子ぐらいやったんです。

光森  与謝野晶子だと、だいぶ俵万智さんと時代の差が……

嶋田  もうニューウェーブの人たちのことも知らなかったんで。だから、ツイッターで見た短歌が、現代の口語、普通の言葉が短歌になっているのがすごい衝撃で。「けり」とか「たり」やないんやって。

光森  そこは面白いですよね。短歌をどうやって世に広げていこうかということを、ときどき考えるのですが、どうしても結社に入りづらいんじゃないかとか、歌集・歌書が高いんじゃないかということばかりを考えてしまいます。それ以前の話ですよね。今の世の中にも短歌はあるんですよ、というところからですよね。

嶋田  でも、その層って結構いると思うんですよ。

光森  今、インターネットを中心に短歌活動をしている方にも、でしょうか?

嶋田  確かめたわけじゃないんですけど、私のようにツイッターで短歌が流れるのを見て、歌を始めた人が結構いるんですよね。結局、学校教育でも短歌をほとんど教えないじゃないですか。

光森  そうですね。さらっと触れた程度の記憶しかありませんね。

嶋田  私はもともとアパレル一本でやってきたんですが、学校教育の知識しかないものにとっては、小説ぐらいは読みますが、あえて短歌に触れる機会がなくて。詩も、産経新聞に一般の人が書いているのが載っているな、ぐらいで。カルチャースクールで短歌を習いましたとか聞くと、すごく不思議で。そういうものだと全く思っていなかったんですよね。

光森  嶋田さんはそこからスタートして、3年ぐらいで歌集を出すというところまで来た、ということですよね。

嶋田  何にも知らなくて大笑いですよね(笑)。

光森  でも、短歌って何かの接点さえあれば簡単に始められ、自分のペースで続けていけば歌集を出すまでにいたるんですよね。面白いものです。

嶋田  ですよね。

嶋田さんの作歌の現場

光森  ところで、短歌を詠むときの嶋田さん独自の方法ってありますか。こんな時に歌がたくさんできる、とか。

嶋田  独自の方法というわけではないかもしれませんが、私は何かをしている時にふっと言葉が浮かんできて、それをできるだけスマートフォンのメモに打ち込んでいます。このメモは、短歌の形ではなく、上の句とか下の句だけとか、5音、7音だけとか、ばらばらです。朝、新聞配達の仕事をしている途中とか、晩ごはんを作っている時とかによく浮かびます。体を動かしている時に浮かぶことが多いので、座って言葉を考えることはあまりないですね。でも、最終的にはこのメモを見ながら短歌に組み立てます。推敲するのはワードの縦書きでやるのが好きなので、最後はパソコンの前に座ってます。

光森  そうなんですね。では、嶋田さんの短歌の言葉選びやその世界観などは、なにか影響を受けたものはありますか。

嶋田  言葉選びで言うと、金子みすゞの詩を読んだのが大きいかもしれません。最初、テレビでアパレルのブランドCMだったんですが、「私と小鳥と鈴と」が出演していた鈴木保奈美の声で流れて。画面上で字幕もでてました、確か。それがすごく好きで、後で詩集を買いました。その後、そのアパレルメーカーに就職することになるとは、思いませんでした(笑)。

光森  「私と小鳥と鈴と」は「みんなちがって みんないい」という言葉が印象的な詩ですよね。たしかに、嶋田さんの短歌のやさしさやあたたかさを感じさせる言葉選びに通じるものがありますね。世界観のほうは、どうでしょうか。

嶋田  世界観ってよくわからないんですよね。人に出会うと、私の世界って小さいなと思います。

とにかく真面目な編集部員

光森  第2回の記事「うたつかい制作現場レポート投稿」にいきましょうか。第2回目では、実際の制作現場では手間暇がかかっているのがすごく分かる記事になっていて、面白かったです。手元に「うたつかい」が10冊以上あるのですが、たとえば誤植があったときには訂正表を挟んでいるとか、すごく丁寧ですよね。言い方はあれなんですが、力をこめて冊子を作って投稿者の皆さんに無料で配っているのに、すごく低姿勢というか。

嶋田  それがですね、私がタイムラインでこういう冊子を作ります、と言ったときに手伝いたいと名乗りでた5・6人が、実際にばっと集まってみると、皆さん妙に真面目やったんですよ。
 もうね、私が「投稿された短歌は投稿されたままでいいやん、これをそのままコピペして載せたらいいやん」と言っているにもかかわらず、「これは誤変換やから、みんなのも校正せんとあかん」「そこはちゃんとせえへんと」と言うすごく真面目な人たちで。たとえば誤植とかあったときに、「一大事や!」と、「これは大変なことや!」と。もうとにかく皆さんに失礼がないように、と。
 私じゃなくて、集まってくれた人たちの姿勢がそうやったということです。

光森  でも、校正の手間はかなりかかっていますよね。仮名遣いも人によって違いますし、皆さんパソコンや携帯などから投稿されるので単純な誤変換もあると思うのですが。これ、都度投稿者ご本人に確認しているんですよね。

嶋田  はい。半角スペース、全角スペースの違いも全部チェックしていて。今、「うたつかい」はフォームからの投稿ができるようになっているんです。それができるようになったときに、「うたつかい」に投稿するときの言葉の決まり集みたいなのを、元編集部員の方が作ってくれたんです。「短歌投稿のガイドライン」と言うのですが、今は皆さんに必ずそれに従って投稿してもらっています。
 たとえば、算用数字やアラビア数字の表記の仕方。ローマ字は基本横書きになりますが一文字なら縦書になります。決まりができてから、そういうチェックがいらなくなったんです。初めてのときは、もう旧仮名遣いとかミスや表記チェックもあったんで、なんて細かいことをしていたんやと。

光森  真面目さだけで、ここまでできるのかと、びっくりしますね。

嶋田  ほんと、そうですよね。

光森  無料だとか有料だとか、そういう問題ではないというのは分かっているんですけれど、ひとつの冊子として、きっちりし過ぎているところがすごいですよね。

嶋田  光森さんにそう言ってもらえると、編集部のみんなが泣いて喜びます(笑)。

「うたつかい」をネットで配布することについて

光森  ところで、「うたつかい」は販売もされていますが、「うたらば」のようにPDFなどの形式で、ネット配布することは考えなかったんですか。

嶋田  その話もあったんですが、そうすると私が印刷する意味がなくなるかなぁと(笑)。私は紙で読みたいというポリシーがあって。今は、わりとネットプリントも短歌の世界に定着していて、ネットプリントの作品をPDFでも公開する人もおられるので、将来的にそうしてもいいかなとも思うんですが。
 ただ、PDFで公開する時というのは、私が手作りできないぐらい「うたつかい」の投稿者が増えたときや、予算的な問題かな。今、冊子の発送を皆さんにするときに、発送代が結構嵩んでいるんで。ヤマトのメール便もなくなるのは、実際きついです。ともかく、発送代を払うのが難しいとなったら、PDFとかになるかもしれません。

光森  それまでは、紙にこだわると。

嶋田  そうですね。なにか作りたいんですよね、物を。

光森  そういった意味では、ネットプリントも同じかもしれないですね。皆さんパソコンからデータを登録しているのですから、それをそのまま公開してしまえばいいと思うのですが、そうせずに印刷することや、してもらうというところにひとつの拘りがあるような。

嶋田  そうですね。私があんまり利用しないんですよね、読みたいものがPDFで公開されていても。電気繋がないと見れないし、環境がないとパソコンからプリントアウトもできない。多分、ジェネレーションギャップもあると思うんですけれど。パソコンやウェブの環境に慣れてないんで。

光森  まあ、私も選択できるのであれば紙を選びますね。PDFは検索できるという利点はありますが、もう検索するときしかファイルを開かなくなりますよね。

嶋田  新聞と一緒なんですよ、結局。新聞の情報って全部ネットに落ちていたりするんですけれど、読みたいものしか検索しないじゃないですか。そうじゃなくて、手にとってつまみ読みしたいんです。となったら、やっぱり冊子。


*「嶋田さくらこさんへのインタビュー<中編>」に続く

記事のカテゴリー:連載記事, うたつかいな日々
しまだ・さくらこ
1975年滋賀県生まれ。95年京都府立大学女子短期大学部国語科卒業。ファッションアドバイザーとしてアパレル会社勤務後、家業の洋品店を継ぐ。2005年に洋品店を廃業し、新聞販売店へ転業。10年1月に作歌を始める。11年9月から「短歌なzine うたつかい」を、編集長として企画、発行。13年12月、書肆侃侃房より第一歌集『やさしいぴあの』刊行。
Website うたつかいブログ
Website ブログ「さくらんぼの歌」
Twitterid = sakrako0304
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