田中ましろさんへのインタビュー<後編>

(tankaful編集部:光森)「うたらばのたられば」最終回となる、インタビュー<後編>の今回は、文フリを中心に賑わう「同人誌ブーム」や、「うたらば」と「歌人 田中ましろ」のこれからをお聞きしました。「短歌男子」の次はどんな冊子が登場するのでしょうか…?
(日)

*「田中ましろさんへのインタビュー<中編>」より続く

「同人誌ブーム」を考える

田中  若手といえば、同人誌のちょっとしたブームには注目しています。ただ、何人かで集まって本を作っただけ、というものはもったいないなぁと感じてしまいます。別に悪いことではないですが、それが何のために、何を目標として作ったのか、発行された本を見てもわからないことが多いんです。僕が広告関係の仕事をしているからかもしれないですが、コンセプトの見えないものはもったいないと感じてしまって。本を作ればとりあえず周囲の人は読んでくれると思うんですが、その一歩先、”周囲の壁”をどうやって超えるのかまで考えた同人誌がたくさん出てきたらいいなと、ときどき感じますね。

光森  創刊されたばかりの物もあるので、号を重ねる中で出てくる個性もあるかもしれないですが、そうかもしれないですね。

田中  どの同人誌も、よいかたちで号を重ねることができるといいですね。

光森  コスト面はもちろん、印刷物の発注のしやすさも今はかなり便利になりましたから、いろんな同人誌が創刊されやすいのでしょうね。ただ、複数の同人誌で「同人」が重なっていたりするので、初見ではいまいち個性が見えづらかったりも。

田中  同人の集め方はそのまま個性になりますが、著名な人を集めただけでは本の個性は浮き出ないですよね。

光森  文フリが定期的にあることによって「何か本を作らないといけない」というような、文フリがペースメーカーになることが本来的にいいことなのかは、ちょっと判断に迷います。読者としては嬉しいのですが、その楽しさももしかすると、短期的な視点なのかな。

田中  文フリがペースメーカーに、というのは言い得ていますね。文フリがあるから何かを作ろうというきっかけにはなるのはいいことですが、たとえば2年ぐらい企画を練られた一冊があれば、簡単に”周囲の壁”の外に出られるかもしれませんし。

光森  何かしようと思ったら、とりあえず「次の文フリ」が第一のターゲットになりがちですね。

田中  そこを目指して何かする、みたいな。

「うたらば」をさらに広げるには

光森  いろいろお聞きしてきましたが、今後「うたらば」をさらに広げていこうとしたときに、どのようなことを考えておられているのか、「うたらば」以外の方法で短歌を広げていこうと思うというものがあれば、ぜひお聞きしたいです。

田中  「うたらば」をさらに広げる方法ですが、最近は「うたらば」の事務的なところですごく時間を取られているので、たとえばこの先、発行部数さらに増えて、配布店舗もそれに合わせて増えていくと、僕ひとりでは対応しきれなくなると思うんです。現時点でいっぱいっぱいというか。さらに広げようと思ったら、編集部制をとったり、協力者を探して発送などの事務的なところをお願いするようにしないと、難しいかもと思っています。単なるキャパシティーの問題ですね。

光森  なるほど。仮に今、お手伝いをしてくれる方が集まって負荷がぐっと減ったとした場合、田中さんご自身は「うたらば」をどうされるイメージでしょうか。

田中  この活動はまだまだ続けるつもりではありますが、「うたらば」の次の形態やどんな本になっていくのかは、まだイメージがないんですよね残念ながら。雑誌ってマンネリとの戦いだとは思うんですが、今のままでもいいような気がしますし。
 たとえば現在は見開きの写真で短歌を掲載していますが、写真を縦長にして写真付きの短歌を増やすことも考えたりはしましたが、そうすると写真枚数が倍になるので撮影に時間がかかって発行ペースが落ちるんだろうなと諦めたり。何かやろうと思っては実行の段階で行き詰まって、今のかたちに落ち着いています。
 ただ、「うたらばの集い」をふたたび東京で開きたい思いはあります。「うたらば」という場を共有する歌人さんたち同士の繋がりを作って、そこからなにか大きな動きが生まれれば、と。それ以外のイメージは具体的には何もない状況なので、何かいいアイデアがあれば教えて欲しいくらいです。

光森  うーん…そうですね、結社や総合誌や協会を巻き込んで何か新しいことができれば面白いと思いますね。

田中  それはありかもしれませんね。前に一度、僕個人で勝手に未来短歌会の広告を作ってツイートしたらものすごい反響だったことがあるんですが、そんな感じで「うたらば」の読者さん向けに結社を紹介する号を作ったり。総合誌などもコラボできたら新しい「うたらば」が見えてくるかもですね。そのためには声をかけてもらえるくらいに活動の規模を大きくしておきたいところですが。

光森  とりあえず、制作を協力していただける方を見つけたほうがいいかもしれませんね。もちろん「うたつかい」のように、皆で制作にあたればすなわち楽になるというわけではないですが、長く続けるためのかたちとして。

田中  そうですね。検討する意味はあるように思います。

光森  体制のことはいろいろ検討されていくと思うのですが、これまで以上に「うたらば」広がってきたときに、発行費用・配送費用などのお金の面はどのように考えておられますか。

田中  お金のことはそろそろきちんと考えねばと思ってます。今のところ収入は「総集編」の販売によるものだけです。文フリに参加して会場に見本誌を置いておくと、「見本誌を見て欲しくなりました」と言ってくれる人も結構いて、ブース代以上の売り上げは毎回確保できています。なのでマメに売りに出かけるのが大事なのかな、と。

光森  とはいえ、文フリに毎回参加するというものそれはそれで、移動費などのコストが掛かりますよね。大阪での開催数は限られていますし。

田中  全体的な収支の話になると正直辛いところですが、「うたらば」を始めるときに、まずはインパクトが欲しいなと思って、キャッチフレーズを「田中ましろが私財を投げうって作る短歌×写真のフリーペーパー」と書きました。はじめは手作りで規模も大きくなかったので、その「私財を投げ打っている感じ」があるほうが協力してもらえるかな、と。なので商業活動に力をいれすぎると、「あれ? 私財を投げうってないぞ?」となってしまうのが怖くて(笑) それもあってツイッターのアカウントからは、「総集編、売ってます!」というあからさまな宣伝をbot的に定期ツイートするのは控えてます。こっそり売っていて、見つけた人が買ってくれる、みたいな。オンライン上ではそのようなかたちで続け、文フリではちゃんと売るというスタンスがいいかなと、思っています。

光森  たとえば、「うたらば」を設置されているお店にとっては、お客さんに対する素敵なリピートツールになっていると思うのですが、お店が田中さんに費用を払って「うたらば」を入荷するという方式でもいいのでは。

田中  うーん、フリーペーパーですしね。お店に売りたくはないかなぁ。どちらかというと個別郵送に対応するかたちで読者の方からカンパの募集などをするほうを選ぶと思います。配布店舗がまだない地域の方にも本誌を届けたい気持ちがあるので。
 まぁ、私財はまだ投げうってますがぼちぼちやっていけている感じはあるので、「うたらば」以外のところで収入を確保するような活動ができれば、それで取り戻せることもあると思います。「短歌男子」なんかは実際よく売れて利益も出せましたし。

光森  「短歌男子」、たしかに各所で話題になりましたね。

「歌人 田中ましろ」としてのこれから

光森  では、「うたらば」から話題を変えて、田中さんご自身の歌人としての活動で、これから何かやりたいことはありますか。

田中  歌人としての田中ましろは、「うたらば」の中では影を潜めている感じはあって。自分の短歌はみなさんの作品にそっと添えているだけで、僕自身はあまり主張してないんですよね。ずっとそうやってきて、それでいいと思っていました。それは「うたらば」以外の場所で作品を発表できていたからですが、歌集を出してみて感じるのは、賞に短歌を出せなくなるこの時期が歌人としての存在感を失う一番危ない時期じゃないか、ということです。新人賞に関しては広告業界の慣習に倣って「新人賞を獲るまでが新人」だと思っていたのですが、短歌の世界はどうもそういう感じではなさそうで。自分で何か動かないと本当に消えてしまいそうな危機感があります。

光森  新人賞に対する考え方はいろいろあって当然ですが、応募し続けるのも応募をやめるのも、募集要項にどう書かれているかはあんまり関係なく、それぞれの中でのなにか”指針”や”信念”のようなものが必要になりますよね。危機感に対して具体的な動きは考えておられますか。

田中  「かばん」では継続して作品を発表していくとして、「うたらば」以外で“田中ましろ”という名前がちゃんと出る活動をしたいです。個人誌、あるいは同人誌でもいいですが、自分自身の活動をちゃんとやりたいな、と。自分の立ち位置がいまいち見えなくなってきているのがあって、もう一度自分のブランディングをやらなくては、と焦っています。

光森  歌集を出した後にどのように作品発表をしていくのかというのは、誰しもが突き当たる悩みかもしれないですね。

田中  前々から「短歌男子」の女子版「短歌女子」を作るのはどうか、というお話はよくいただいていて。ただ、女子版は「短歌男子」と同様に短歌を詠んでいる女の子の写真を撮るのでは絶対にダメなんです。なんというか“笑えなくなってしまう”ので。きっちり丁寧に撮っても判断がしづらいじゃないですか。男子なら“笑い飛ばせる”ところが、女子だと“笑ってはいけない”感じになってしまう。それは誰も幸せにならないので、お話をもらっても聞き流していました。ただ、例えばひとりのきちんとしたモデルさんを撮影して、その写真をベースに短歌を詠むというような企画であれば、見てみたいものになるんじゃないかと考えていて、それはこっそり動き出しています。年内には出せるイメージでやってみようかなと。

光森  たしかに「短歌男子」には、硬派なようでナンパなような、大真面目なようでくすりと微笑めるような、読み手がさまざまに反応できる点が大きな魅力でしたね。「短歌女子」だとなぜそうならなそうなのかは、短歌とジェンダーの観点で興味深いですが、感覚的には分かりますね。
 いずれにせよ、すでに新しい取り組みに向かっておられることに、安心しました。どんなものができあがるのか、とても楽しみです。

田中  連作などのまとまった数の作品を「うたらば」には載せられないので、やっぱりしっかりと練った作品を発表できる場所が欲しいです。もちろん、やるからには“周囲の壁”を越えられる企画でないといけないなと思っています。

最後にひとこと

光森  さて、長々とお話をお聞かせいただきましたが、最後にひとこと、いただけますでしょうか。

田中  ひとこと…、うーん、じゃあ連載した記事に関して。tankafulの連載で僕が書いたのは、「普通の読者ってこういうもんだよ」という紹介と、「そんな読者に短歌を届けるための作戦」です。それは何気なく詠むのではなく、作品を読まれる“出口”から考えてみるということ。試しにやってみると、自分では思っていなかった歌が出てくることもあるので、ぜひ一度試してもらえると嬉しいです。そして、いい歌ができたらぜひ「うたらば」にご投稿いただきたいです(笑)

光森  長時間ありがとうございました。

田中  こちらこそ、ありがとうございました!

記事のカテゴリー:連載記事, うたらばのたられば
たなか・ましろ
1980年生まれ。コピーライター、CMプランナー。2009年、短歌に出会う。「短歌サミット」、「名短」など短歌イベントの企画・運営協力を経て、2010年、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」を創刊。短歌を広める活動に力を入れている。2012年、連作『告げられる冬』で短歌研究新人賞候補作。2013年、「短歌男子」企画・制作。「かばん」所属。
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