短歌の新人賞に応募しているのは誰か?
日本の人口推移
短歌の新人賞について考える前に、ちょっと寄り道(いきなり!)をして日本の人口推移を見てみましょう。総務省統計局が発表している「人口推計」の2000年以降のデータを拾い、グラフにまとめてみました。(短歌の新人賞のデータと揃えるため、0~9歳代の数字については除いています)
ご存知の通り、日本の人口はすでに減少傾向に入りました。ですが、まだ減少幅は小さいため、【図1】上図では総計の変化はほとんど認識できず、割合を示す下図とほとんど同じような見た目になっています。グラフからは、次の様なことが読み取れるでしょうか。
- 60代以上の世代は、数のうえでも割合のうえでも増加傾向にある。
- 20代以下の世代は、数のうえでも割合のうえでも減少傾向にある。
なお、30代~50代の世代は、「団塊の世代」の流出(50代→60代)、「団塊ジュニアの世代」の出入(30代→40代)により、増えたり減ったりしています。いずれにせよ、今後日本の人口は高齢者の割合を拡大させつつも、全体数はぐんぐん減少していきます。高齢層に支えられており、それゆえいっそう若年層への広がりが期待される短歌の世界がこれからどうなっていくのか、ちょっぴり不安になるグラフです。(”たっぷり不安”になりたい方は、こちら総務省発表の資料をご覧ください)
日本の人口推移をあたまの片隅に置きつつ、各新人賞を見ていきましょう。
角川短歌賞の応募者数推移
角川短歌賞の応募者の情況をまとめたのがこちらのグラフになります。(各回の受賞者や性別割合は、こちら「短歌賞の記録:角川短歌賞」をご覧ください)
グラフにおいて灰色で示されている、2001年以前の受賞者の年齢情報は「大正生まれ○人、昭和生まれ○人」(なんと!)という区分で公開されていました。2000年の第46回角川短歌賞の応募者は「大正生まれ23人、昭和生まれ514人、不明2名」であり、もはや元号による区分が機能していなかったことが分かります。
その反省があってか、2002年からは年齢による区分に切り替わりました。ただし、10代と20代は同じ区分「20代以下」となっています。その区分も、2005年の第51回からは、ふたつに分けられるようになりました。背景としては、前年2004年の第50回角川短歌賞において小島なお氏の受賞(受賞時10代)と、それに起因するであろう若手の応募が増えたことがあると思われます。
さて、グラフからは次のようなことが分かるのではないかと思います。
- 2000年以降の角川短歌賞について
- 応募者数は凸凹があるが、基本的には増加傾向にある。
- 60代以上の応募者数・割合は人口推移と同じく増加傾向ある。
- 20代以下の応募者数・割合は人口推移に反して増加傾向ある。
短歌人口については分かりませんが、少なくとも賞の応募者数という観点では20代以下の増加が見て取れます。ただし、例えば「ぐっと増えて倍になった」というものではなく、あくまでも「人口推移を考慮すると」という但し書きは必要だと思います。ここ十年ぐらいの私個人の肌感覚としては「倍」なので、不思議なものです。インターネットの浸透とともに、特に若手の応募者の顔が見えやすくなったためかもしれません。
短歌研究新人賞の応募者数推移
短歌研究新人賞の応募者の情況をまとめたのがこちらのグラフになります。(各回の受賞者や性別割合は、こちら「短歌賞の記録:短歌研究新人賞」をご覧ください)
灰色のグラフが多くなっていて、やや情況が掴みづらいですね。2007年以前の受賞者の年齢情報は基本的には「昭和19年以前生まれ」「昭和20年~○年生まれ」「昭和○年生まれ以降」という区分で公開されていました。一見、過去の角川短歌賞の年齢区分よりも詳細だと感じるのですが、実は「昭和20年」という区切りは毎年同じである一方、「昭和○年生まれ以降」の”○”の数字は変化していくという変則的なものです(さらに、表記ミスであるのか”○”の数字が変わらない場合も…)。そのため結局、各年齢区分の増減が比較しづらい情況でした。2008年以降は応募者の年齢に応じた区分となりましたが、10代と20代は区別されていません。
遠い将来に短歌を研究するであろう人の視点から考えると、時代ごとに詠まれた短歌だけではなく、短歌の世界がどのようであったのかのヒントになる数字はとても貴重なものとなります。そのため、総合誌などで発表される数字については、「同じ基準の継続」(あるいは、長期的使用に耐え得る基準)、「可能な限りの細分化」を願いたいところです。
グラフに戻りましょう。読み取れることをまとめてみます。
- 2000年以降の短歌研究新人賞について
- 応募者数は凸凹があるが、基本的には横ばい。
- 2008年以降のデータを見る限り、60代以上の応募者に大きな変化は見られない。
- 40代・50代の応募者は減少傾向にあるが、その分を30代以下の応募者が増える形でカバーしている。
- 上記を反映し、割合の視点では30代以下が順調に伸びている。
2008年以降のデータから見るしかありませんが、ここ5・6年における40代・50代の応募者数の減少と、30代以下の応募者の増加が目立ちますが要因は分かりません。角川短歌賞よりも短歌研究新人賞の方が、若い層が多く応募しているような印象がありましたが、2014年を見る限り、意外と変わらないものだと認識を新たにしました。
歌壇賞の応募者数推移
歌壇賞の応募者の情況をまとめたのがこちらのグラフになります。(各回の受賞者や性別割合は、こちら「短歌賞の記録:歌壇賞」をご覧ください)
ご覧の通り、灰色のグラフがありません! すばらしいことに歌壇賞は第一回目の受賞発表からほぼ一貫した年齢区分を用いています。記録のしがいがある、というものです。(もちろん、グラフにしました。ご興味があるかたは、上図をクリックしてみてください。第一回目からのグラフを表示します)
それよりも、角川短歌賞・短歌研究新人賞とは明らかに傾向が異なります。2006年と翌年の2007年を比べると、応募者数がおよそ倍になっています。そして、以降2012年にかけて、20代以下の応募者数が異常に増加しています。
10代・20代の若者100名ほどが、ある年を境に一度に増えるとなると、ある大学の授業や課題に歌壇賞への応募が組み込まれたためではないかと想像します。角川短歌賞や短歌研究新人賞と比べると、歌壇賞は締め切りが春ではなく秋であり、(短歌研究新人賞にはある)雑誌購入を前提とした応募票の添付も必要ありません。その点では、課題対象にし易いと言えるかもしれませんね。あくまでも想像なので事実は分かりませんが、何か大きな力が働いていたことは確かだと思われます。
いずれにせよ、2000年から現在までの傾向は読み取りづらいものがあります。2013年・2014年のグラフを見る限り、他のふたつの賞と比べると60代以上の応募者の割合が低いこと、2014年には30代以下の応募が50%を超えていることは、特徴としてあげられるでしょうか。また、イレギュラーな増加があった2007年から2012年を除いて考えたとしても、2006年と2014年との比較でも応募者が大きく増えて1.5倍になっていることは、嬉しいことです。
短歌の新人賞に応募しているのは誰か?
最後に、角川短歌賞・短歌研究新人賞・歌壇賞の応募者を足しあわせて、三賞の累計応募者数を見てみましょう。
合算するためには、各賞の年齢区分のうち最も網目が荒いものに合わせることになります。そのため、2008年以降のデータで、10代・20代の区別のないグラフになりました。
三賞の応募者数は、「歌葉新人賞」と「短歌現代新人賞/歌人賞」の終了や、2004年以降隔年で開催される「中城ふみ子賞」などの影響を、実際には受けているはずです。それでも、三賞の応募者数には短歌の世界の熱量を測るバロメーター的な役割があると思っています。2014年の応募者数累計は「1,509作品」(年齢不明数を除いた数)。このなかから3作品しか受賞しないということを考えると、途方も無い数字のように思えますね。
2014年の応募者数累計割合も見てみましょう。「70代以上」から「20代以下」へと若い世代に移るにつれて、応募者数が増えていることが分かります(おそらく、「20代」のみで考えても「30代」より多いはずです)。10代を除けば、基本的には新人賞は若い世代ほど応募している、ということは言えるでしょう。
日本の人口が減少傾向にあり、かつ、若い世代ほど割合が小さくなるなかで、短歌新人賞の応募者数がすこやかに伸びてゆくことを願うばかりです。
いい歌がある、いい批評がある。そのことがそのまま短歌人口の増加に繋がるような、構造的・継続的な仕組みづくりこそ、今もっとも求められていることであり、未来の世代への最高のプレゼントではないでしょうか。
というような耳ざわりのよいまとめ方にも、すっかり飽きてきましたよね。――さてさて、どうしたものか。